2017 Fiscal Year Research-status Report
科学の源流と形而上派詩人たち- 17世紀英文学と磁力
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17K13409
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
松本 舞 広島大学, 文学研究科, 助教 (00754326)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 磁力 / 英国学士院 / 形而上派詩人 / Henry Vaughan |
Outline of Annual Research Achievements |
ヴォーンの詩的表現は神秘主義思想の影響が強く、科学技術が発達する前の思想を反映するものであるといえる。イギリスの大英図書館及びブレコン州での調査を行い、ヘンリーの双子の弟であり、錬金術師であったトマス・ヴォーンの文献を閲覧、調査し、兄ヘンリーとの関係を明らかにする研究を行い、これらの成果について17世紀英文学会関西支部例会において、「ヘンリー・ヴォーンと磁力」と題した発表を行った。ヘンリー・ヴォーンの詩的表現における磁力 (‘magnetism’) のイメージは、これまでの研究においても論じられてきた。ヴォーンの磁力の使い方は、初期の作品群の中における場合と『火花散る火打ち石』の作品群の中における場合とでは変化しており、そして後者においては、ウィリアム・ギルバート (William Gilbert) の影響を受けていることが指摘されてきた。よく知られたギルバートの磁石論の大きな科学的貢献は、コンパスの針が北を指すのは北極星が磁気を帯びているからだというそれまでの説を覆して、地球自体が磁石であることを主張した点にあるが、それはギルバートが熱心にアニミズム的な宇宙観、地球も霊魂を持っているという考え方を信奉したことと深く関わっていることが分かった。ギルバートの磁石論は、17世紀の前半、大きな影響力を維持し続けており、サー・トマス・ブラウン やロバート・フラッドの磁石論もそれを基礎にしたものであった。本研究を行うにあたり、階層化された3種類の磁力の説明を下層から上層へと逆にたどりながら、これまでの論に加え、ヴォーンの描く復活や昇天が、磁力の概念や磁石のイメージによって裏打ちされている可能性を指摘するとともに、「鶏鳴」 (Cock-crowing’) と題された詩の中で光を引き付ける鳥の力が磁力として示されていることに注目し、そこに、政治的、宗教的な意味を見出すことを試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度はブレコンで開催されるThe Vaughan Associationの学会に参加しHelen Wilcox, Robert Wilcherなどの研究者と、17世紀英文学と磁力についての議論を行うことができた。また、イギリス大英図書館及びブレコン州での調査を行い、ヘンリーの双子の弟であり、錬金術師であったトマス・ヴォーンの王立学士院に関する文献を閲覧、調査し、兄ヘンリーとの関係を明らかにする研究を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで考察に加え、医師であったヴォーンは、例えば、ヘンリー・ノリウスのHermetical Physickを翻訳する際に、磁石が薬になりうることを理解していたに違いないと考えられるため、17世紀に発表された医学論文を詳細に検証し、医学と磁力の関係について考察を深める。また、磁石は自らの職業に関わる物質であっただけでなく、その特異で神秘的な性質は、双子の弟トマスとの関係があってこそ兄ヘンリーの興味をそれに向かわせたのかもしれないと考えられる。トマス・パウエルへの書簡詩が収録された『復活せしタレイア』が出版されたのは、ヴォーン自身の片割れ、トマス・ヴォーンの死後であったとされているが詳細な記録は残っていない。本年度は弟トマスの伝記的な側面も考察に入れ、ヴォーンの詩的表現にどのような影響を与えているかを検証する。ヴォーンの詩における磁石の意味を見出そうとする時、彼の生きた時代状況を考えざるを得ない。ヴォーンを含む王党派の人々たちにとって、特にチャールズ一世の処刑後、統制者を失った状態にあった時、人々が散らばっている状態は、この磁石を失った状態に等しかった可能性がある。これらの理由から、清教徒革命をめぐる状況と磁力の力の関係を再考察する。 平成30年度はブレコンで開催されるThe Vaughan Associationの学会に参加し発表を行う。また、そこで展開された議論を基に、Scintilla 22に論文を投稿する。また、 South-Central Renaissance Conference (SCRC) に参加し、ヴォーンと同時代のマーヴェルなどの研究者たちとの意見交換を行う。
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Causes of Carryover |
英語での論文発表が次年度になったため、英文校閲の謝金に充てる金額を書籍購入に使用した。購入予定の書籍の納入が4月以降になったため、17,917円の差が生じた。この金額を次年度の書籍購入の費用に充当する。
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Research Products
(1 results)