2018 Fiscal Year Research-status Report
A Study of Peter Idley's Manuscripts
Project/Area Number |
17K13416
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Research Institution | Kanazawa Gakuin University |
Principal Investigator |
工藤 義信 金沢学院大学, 文学部, 講師 (70757674)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 中英語写本研究 / 各現存テクストの特徴 / テクストの特徴の分類 / テクストの特徴の分析過程の精緻化 / テクスト改変に関わる人物の検討 / テクスト改変の事情と意図 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度から、Peter Idley's Instructions to his Sonの第二部を収録した大英図書館所蔵の一写本について、ひとつのヴァージョンとしての特質の分析とその意義についての考察を進めてきた。10月に金沢で開催された西洋中世学国際ワークショップでは、中英語写本研究の第一人者であるケント大学のA.S.G.Edwards氏とロンドン大学のJulia Boffey氏をコメンテーターとして迎え、上述の写本を他の写本と比較して明らかになったことを踏まえた最新の研究成果について報告した。両氏との意見交換を通じて、他写本との比較から見えてくる上述の写本のテクストの特徴が、本当に改変と言えるのか、また改変だとしたら誰による改変なのか(本当に写字生によるものと言えるのか)について、より慎重な推論が必要であることが明らかになった。この貴重な知見も踏まえてまとめられた上述写本に関する研究論文が、関連領域の学術誌から次年度中に上梓される予定である。また、こうした関連領域の研究者との議論を通じて、今後のさらなる写本調査の方針も明確になった。 このほか、上述写本以外の写本の画像データの収集を実施し、次の写本の詳細な分析に向けた準備を確実に進めることができた。また、上述写本の分析の過程で、そもそもIdleyが材源にどのような変更を加えて自身の詩を創り出したのかという新たな疑問が浮かび上がってきたため、Idleyの主要な材源の比較を開始した。さらに、上述写本の写字生に関係すると考えられる史料の収集も行った。これらの研究は、テクスト分析に背景を与えるものとして、本研究課題のまとめの段階で総合される見通しである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
大英図書館所蔵の一写本についての研究論文が完成し、次年度中に公開される予定である。このように研究は確実に進展をみているが、本論文の完成まで、複数の異なる観点から資料調査を実施し、また研究報告と議論を経て論文の推敲をはかってきた。その結果、論文の内容はより充実し、議論はより精確になったが、当初想定していた以上に本論文の完成に時間をかける結果となった。一方で、本年度遂行予定であった次の写本の調査・分析はまだ予備的な段階にあり、より集中的な分析段階には至っていない。以上が、計画より少し遅れている理由である。しかし、前述の研究をできるだけ正確に進めるよう努める中で、以後の写本調査における分析のターゲットや判断基準がより明確になった。そして本年度もテクスト分析のための写本画像データ収集は進められたので、それらのデータをもとに、次年度に遅れを取り戻していくことは可能と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から得られた知見を踏まえ、Peter Idley's Instructions to his Sonの現存するヴァージョンひとつひとつの特徴の明確な指摘とその意義についての考察という本研究課題の第一の目的に立ち返り、次のような方針で今後の研究を進めていく。 1.先に詳しく分析した写本との比較の意義がより大きい写本から順番に分析を進める。全体としては、第二部のみを収録した写本や、第一部・二部両方を含めた写本を先に調査し、その後、第一部のみの写本の分析に移る。 2.それぞれの「ヴァージョンの特徴」を、(1)言語的な特徴、(2)1語~1行の小さな特徴、(3)複数行にわたる追加・削除・順序変更・改変といった大きな特徴に大別し、このうち(3)を中心に収集する。 3.上の(3)の特徴に関して、次の事項を検討する。(1)著者Idleyの作品制作過程を示唆するものである可能性、(そうではなく、後の編集者の改変によるものだとして)(2)改変に関わる事情・意図 (3)改変が示す作品理解 (4)改変された結果、どのような作品として写本読者に伝えられているか。以上を総合して、それぞれのヴァージョンの意義を論じる。 4.現存写本の調査全体を総合し、Idleyの作品制作過程の再検討、各ヴァージョンの成立事情の総体から見えてくるIdley受容のありようについての考察を行う。
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Causes of Carryover |
論文作成に必要な資料購入費が当初の予定よりも若干低く抑えられたことが理由である。この分は、次年度の写本調査の費用を補うものとして活用する。
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Research Products
(1 results)