2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K13417
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Research Institution | Kyoto Notre Dame University |
Principal Investigator |
大川 淳 京都ノートルダム女子大学, 人間文化学部, 講師 (50755288)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | Herman Melville / 食と文学 / 捕鯨 / カニバリズム / アメリカ食文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題である、「食文化研究から読むMelville文学」の平成29年度の研究実績としては、4月から8月にかけて主にThe Confidence-Man: His Masqueradeのテクスト分析と先行研究の渉猟を行った。その際、食の諸相に着目し、特に作中で詐欺師が人を騙す際にワインを飲む(飲ませる)行為が「書く」という行為に接続することについて議論し、作家の書くという営みへと発展させることによって、信用詐欺師に作家の特権的性質を見いだすことができることについて分析した。そこから12月にかけて論文執筆をおこない、関西学院大学英米文学会の雑誌『英米文学』に“The Impostor and the Imposer: The Fictionality of The Confidence-Man”を投稿した。 また冬季休暇を利用して、2月12日から同月23日まで、アメリカで実地調査を行った。実地調査では、ボストン、ニューベッドフォード、ニューヨークを訪れた。ボストンやニューヨークでは食文化研究とともにMelvilleゆかりの地と作品に登場する各所を巡った。またニューベッドフォードのニューベッドフォード捕鯨博物館では、同館司書のMark Proncknik氏の支援を得ることができ、捕鯨産業の資料収集を実施した。とりわけ当時の捕鯨航海日誌における食人種とカニバリズムについての記述されたものを集中して閲読した。The Blue Anchor Pressから出版されたWilliam A. SluzzeyのA Cannibal Encounterでは、食人種との遭遇が描写されており、Melville文学では重要な意義をもつ捕鯨産業と食人種との関わりを知る貴重な資料を読むことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成29年度における研究実績の遅れとしては、「食文化研究」からのMelville文学の分析という当初の研究計画から逸れた研究テーマが発見されたことに起因し、つまりMelville文学を再考する際に副産物として新たな研究テーマが生じたことがその原因として挙げられる。まず、実地調査において、Thomas Coleを代表とするハドソンリヴァー派の風景画を調査する機会に恵まれ、Melville作品における風景というテーマが、Melville文学の重要なテーマとなっていることが発覚した。これらの研究は平成30年3月7日の本務校で開催された研究プロジェクト発表会「海と崇高」において発表した。 また、Melville文学と深い関連性をもつNathaniel Hawthorne研究も同時に行ったことも研究の遅れの一因となった。具体的には日本ナサニエル・ホーソーン協会第36回全国大会ワークショップ(平成29年5月19日)での発表と関西支部9月研究会での研究発表「皮膚とテクストから読むHawthorne文学」(平成29年9月16日)を行った。これらのHawthorne文学研究において、「食文化研究から読むMelville文学」研究との関連性が全く見られないわけではなく、研究成果にも挙げた、「食べる」行為と「書く」行為との関連性は、Melville文学において、皮膚の次元においてもたびたび表出される。しかしながら、いまのところ皮膚から読むHawthorne文学と、Melville文学との接続性を見出すことができず、個別の研究テーマとして扱わざるを得ない状況となっている。以上のことに鑑みて、研究の進捗状況を「やや遅れている」と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度の研究計画では平成29年度の研究を引き継ぎ、主にポリネシア、マルケサス諸島での実地調査を行う予定であるが、同時にMelvilleの短編小説を中心に分析を行う。とくにマルケサス諸島での調査の前には、平成29年度の捕鯨航海日誌の文献の整理と、先行研究を事前におこない、より効率的な実地調査を行うことを目標とする。 また、Moby-Dick論の論文執筆を目標にし、テクスト分析も同時に行う必要がある。しかしながら、平成 29年度の研究において、副次的にテーマとして浮上した風景とMelville文学、および皮膚表象から読むHawthorne研究との接続性を見出すことによって、今後の研究の発展性をみいだすことも今後の研究の課題である。それに加え、これまでの研究において翻案研究が食文化研究から読むMelville文学に寄与するところが大いにあることがわかり、今後の研究の発展のために翻案研究も視野に含め、研究に従事する予定である。 また、ポリネシアでの実地調査で得られる情報を整理することによって、Melville文学の特に初期作品を再考する足がかりを得る必要がある。実地調査を円滑に行うために、先行研究の渉猟と、初期作品のテクスト分析を行う必要がある。それによって、実地調査の課題を明確にし、研究成果につながる円滑な調査を実施する予定である。
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Causes of Carryover |
平成29年度の旅費にかかる経費が支出見積から大幅に下回った原因として実地調査出張時期と期間を変更したことが挙げられる。また、書籍購入費用として計上していた物品費について、平成29年度に実施した研究内容に必要な書籍がすぐに研究施設内で閲覧可能なものであったために、経費が支出見積もりから大幅に下回った。 平成30年度の助成金使用計画として、ポリネシアでの実地調査にかかる費用と、今年度の研究に必要な書籍の購入費とその他の雑費に使用する予定である。
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Research Products
(1 results)