2018 Fiscal Year Research-status Report
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17K13417
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Research Institution | Kyoto Notre Dame University |
Principal Investigator |
大川 淳 京都ノートルダム女子大学, 人間文化学部, 講師 (50755288)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | Melville文学 / 食 / カニバリズム / ナルシシズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題である、「食文化研究から読むMelville文学」の平成30年度の研究実績として、主にMelvilleの代表作の一つであるMoby-Dick; or, The Whale (以下、Moby-Dick)を中心に研究、論文執筆を行った。 Moby-Dickは捕鯨の世界で生きる船長Ahabの白い抹香鯨Moby Dickへの復讐を描いた作品であるが、本作品の「食」の描写を中心に分析し、血なまぐさい捕鯨の描写とAhabの復讐劇とに付与されたカニバリズムのメタファーについて分析を行った。これまでの批評史において、AhabとMoby Dickにみられる鏡像関係が、身体的アナロジーとナルシシズム的欲望の観点から、しばしば指摘されてきた。そうした関係性を踏まえれば、Ahabの復讐に「食べる」という攻撃的欲望と、それと相反する「食べられる」苦悩といった、アンビバレントな特性を見出すことができる。そこで、本論文では、従来の批評史を踏まえ、Ahabの復讐劇にSelf-Cannibalism的構図を読み取れることを考察した。尚、本論文は、日本メルヴィル学会が刊行している雑誌論文Sky-Hawk: The Journal of the Melville Society of Japan(no. 16, 2018)に掲載された。 また2017年度から副次的に研究の対象となった文学における皮膚表象研究の延長で、Moby-Dickの再読を通じ、作品にみられる皮膚表象の研究も行った。Melville文学における皮膚は、ただ単に主体と外の世界との境界となるだけではなく、主体の内面あるいは深層を表出する媒体として機能しているようである。特に、皮膚は書かれる対象として機能し、主体の換喩として描かれる。以上の研究を踏まえ、皮膚と「書く行為」との接続性と食表象との関連を研究しているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題の一つである、TypeeやOmooの舞台となったマルケサス諸島における現地調査がまだ行えていないということから、進捗状況にやや遅れが生じていると判断した。その理由として、2017年度に副次的に新たな課題としてあがったHawthorne文学にみられる皮膚表象の研究に新たな進展(2018年度には、International Poe & Hawthorne Conferenceが開催され、研究("Reading Skin: The Mark of Aesthetics in 'TheBirth-mark'")を発表した)がみられたことによる。 文学における皮膚表象については、近年多くの研究がなされているところであり、これらの先行研究を渉猟することにより、タトゥーなどの文化人類学主題や、鯨の皮膚についての多くの考察がみられるMelville文学の新たな切り口を提示することになった。しかしながら、依然として本研究課題の「食」と、新たな課題である「皮膚表象研究」の関係性については、まだ発展途上であるため、進捗状況を「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究を進める上で、2017年度に行った、捕鯨航海日誌等の閲覧から得られた情報や実地調査で得た資料を整理し、南洋を舞台とするMelvilleの小説、Typee: A Peep of Polynesian LifeおよびOmoo: A Narrative of Adventures in the South Seasの再読を現在行っているところである。今後の研究の推進方策として、この2作品にみられるポリネシアにおける食文化に付与された特徴について、テクスト分析及び現地での実地調査を通じ、考察する予定である。この研究を円滑に実施するためには、実地調査までの文献調査が必須であるが、Melville文学の先行研究だけではなく、南洋文化についての文化人類学的な文献調査も同時に行う必要がある。 また、ポリネシアにおける食文化あるいはカニバリズムについての調査だけではなく、本研究の過程において副次的なテーマとして設定した、Melville文学における皮膚表象研究を進め、「食表象」との接続性を模索したい。
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Causes of Carryover |
助成金の次年度使用額が生じた理由として、ポリネシアでの実地調査を行わなかったことにより、予定していた旅費予算の未使用があげられる。翌年度分の予算の使用計画については、ポリネシアでの実地調査に使用する旅費予算と、書籍購入費に充てる予定である。
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Research Products
(1 results)