2017 Fiscal Year Research-status Report
後期ヴィクトリア朝文芸雑誌上にたどる模倣と盗作の問題意識
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17K13418
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Research Institution | Osaka Seikei College |
Principal Investigator |
麻畠 徳子 大阪成蹊短期大学, グローバルコミュニケーション学科, 講師 (40595831)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 盗作擁護派 / 著作権意識 / 作家協会 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度の研究成果は、次にあげる二つである。 ひとつは、2017年7月31日に刊行された『広島経済大学創立50周年記念論文集』に収められた論文「後期ヴィクトリア朝の文学市場における著作権意識の変遷」である。本論文では、文芸作品の知的所有権をめぐる実に多くの議論のなかで、職業作家という存在が社会的に認められてきた19世紀後半の後期ヴィクトリア朝という時期に注目し、著作権という概念の萌芽が、職業作家の当然の権利として主張されるようになっていく一過程を辿った。本論文は、当該研究課題において中心的な考察対象である「盗作」についての問題意識と表裏の関係にある著作権意識を、通史的観点から振り返り、その変遷過程を整理したものである。 もうひとつは、2018年度刊行予定の大阪大学英文学会叢書『カット!―英米文学に切り込む―』に収められる予定の論文「切り貼りの文学―後期ヴィクトリア朝文学市場における盗作擁護のレトリック―」である。本論文では、1880年代から90年代にかけて急速に民主化した後期ヴィクトリア朝の文学市場において、当時の定期刊行物上で散見された、文学作品における「盗作」の是非をめぐる活発な議論を辿り、盗作擁護派の主張の真意を考察した。本論文は、当該研究の中心的な課題に取り組んだものである。大英図書館に赴いて収集した文芸雑誌の記事を整理し、考察を加えた。 以上、平成29年度は両論文において、当該研究課題の時代的文脈を明らかにしようと努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、2本の論文を研究成果として公開することができた。また、2018年2月末から3月にかけては、大英図書館へ赴き一次資料の閲覧、収集を実施した。それにより、文芸雑誌上の議論の詳細を、より正確に辿ることができるようになった。まだ、必要な一次資料の収集は残っているが、現段階ではおおむね順調に研究課題に取り組めているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、文芸雑誌上の議論において見受けられる「盗作」をめぐる問題意識のあり方を、実際に雑誌に作品を投稿していた職業作家による個別の意識に関連づけて、より包括的な考察を進めていく予定である。そのために、文学の商売としての側面に意識的であったディケンズを起点として、1884年に作家協会を設立したベザントに至るまで、個別の作家の職業意識を、先行文献を参照して辿っていく。その際に必要となる資料収集作業は、本年度の夏に大英図書館へ赴くことで進めていく。また同時に、デジタル・アーカイブを利用した文学研究の方法論についても、日本内外の動向を見ていきながら、模索する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、資料取集のためにイギリス大英図書館へ行った際にかかった旅費の決済が、年度またぎの時期にあたったので、4月以降の使用額として計上したためである。翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画としては、ヴィクトリア朝文芸雑誌の記事を索引として網羅した『The Wellesley index to Victorian Periodicals,1824-1900』のデータベースのアクセス権購入と、資料収集のための渡英にかかる旅費に多くを充てる予定である。
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Research Products
(2 results)