2018 Fiscal Year Research-status Report
後期ヴィクトリア朝文芸雑誌上にたどる模倣と盗作の問題意識
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17K13418
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Research Institution | Osaka Seikei College |
Principal Investigator |
麻畠 徳子 大阪成蹊短期大学, グローバルコミュニケーション学科, 講師 (40595831)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 作家協会 / 著作権意識 / 文学の尊厳論争 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度の研究成果は、次にあげる二つである。 ひとつは、2018年12月25日に刊行された『ディケンズとギッシング―底流をなすものと似て非なるもの』(大阪教育図書)に収められた論文「文人としての英雄―ディケンズの敢闘精神とその継承者」である。本論文では、当該研究課題において考察の中心となっている職業作家の著作権意識の変遷のなかで、その分岐点になっているとも捉えられるディケンズの社会活動に注目したものである。早くから職業作家としての商業的成功を収めたディケンズは、作家の社会的地位の向上を目指して、イギリスでは初となる「作家協会」を設立することを構想した。しかし、中期ヴィクトリア朝の出版業界はディケンズのように作家業だけで経済的安定を望めるほどの作家は少なく、作品を出版するということは一種の投機のようなものと認識されていたため、ディケンズの構想は実を結ぶことなく頓挫した。本論文では、ディケンズのそうした構想がどのような状況から生まれたものであるのかを分析したうえで、のち後期ヴィクトリア朝において、その構想が引き継がれ実現していく過程を考察した。 もうひとつは、2018年10月20日に徳島大学において開催された、日本ハーディ協会第61回大会シンポジウムでの研究発表である。「誌上シンポジウム Candour in English Fiction を考える」と題されたシンポジウムにおいて、「ウォルター・ベザントのプロフェッショナリズム」というタイトルで研究発表を行った。発表内容は、ディケンズの構想した「作家協会」を1884年に創設させることに成功したベザントの職業意識に注目し、後期ヴィクトリア朝における職業作家の社会的立場の変化を考察した。 以上、2018年は論文と研究発表において、当該研究課題の時代的文脈を整理した2017年度から考察を深め、個人作家レベルでの変化を分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度は、論文と研究発表という形で研究成果を公開することができた。また、2018年9月においては、大英図書館へ赴き一次資料の閲覧、収集を実施した。それにより、ディケンズやベザントといった、当時の文芸雑誌を活躍の場とした作家の記事を収集することができ、議論の詳細を辿ることができた。また、2019年3月には『The Wellesley Index to Victorian Periodicals 1824-1900』という高額図書のCD-ROMを購入し、当時の主要な文芸雑誌をインデックス化した資料を考察に活用できるようになった。そのため、2019年度は一次資料に基づいたより具体的な議論が進められる予定である。まだ一次資料の詳細にあたれてはいないが、現代階ではおおむね順調に研究課題に取り組めているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、文芸雑誌上の議論において見受けられる「盗作」をめぐる問題意識のあり方を、ヴィクトリア朝の中期から後期にかけての著作権意識の変化の過程に関連づけて、より考察を深化させていく。前年度3月に購入した『The Wellesley Index to Victorian Periodicals 1824-1900』(CD-ROM版)を活用し、plagiarism(盗作)、authorship(著作権)、professionalism(プロフェッショナリズム)などをキーワードとして、当時の議論を整理していく。その際に必要となる資料収集作業は、本年度の夏に大英図書館へ赴くことで進めていく。また、当該研究課題の最終年度となるため、研究成果の公表する場を、所属する日本ヴィクトリア朝文化研究会や日本英文学会での研究発表などといった形で実施する予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、当該研究課題の1年目において、資料収集のためにイギリス大英図書館へ行った際にかかった旅費の決済が年度またぎの時期に当たったので、4月以降の使用額として計上したため、2年目以降の執行額に当初の計画からのずれが出てきたことによるものである。2019年度は、国内外の資料収集のために、主に旅費として研究費を使用する予定である。
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Research Products
(2 results)