2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K13426
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
浅間 哲平 静岡県立大学, 国際関係学部, 講師 (00735475)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | プルースト / ロベール・ド・ラ・シズランヌ / ジャック=エミール・ブランシュ / 美術批評 / ラスキン |
Outline of Annual Research Achievements |
プルーストが特に親しく交わった二人の美術批評家を対象に研究を進めた。 一人目のロベール・ド・ラ・シズランヌ(1866-1932)は元々弁護士で、美術の専門教育を受けなかった評論家である。プルーストがラスキンを翻訳するときに『現代英国絵画』(1895)と『ラスキンと美の宗教』(1897)を参照していたことが知られている。本年度の研究によって、さらに、プルーストがラスキン翻訳以降もロベール・ド・ラ・シズランヌの仕事に対して関心を抱き続けていたことがわかってきた。 ラ・シズランヌとは異なり、ジャック=エミール・ブランシュ(1861-1942)は画家として活躍した美術批評家である。研究者の間では、プルーストがブランシュの書いた評論集『芸術談話』(1921)に序文をつけたことで知られている。ところで、ブランシュとプルーストは二人とも『ガゼッタ・デ・ボ・ザール』や『ルビュ・ブランシュ』などの雑誌に評論を発表しており、若い頃から二人は書簡で相互に批評する間柄で、長い知的交流の中でプルーストはブランシュの著作に序文を書いたことは軽視されてきたように思う。プルーストとブランシュの関係について長期的なスパンで再検証した結果、ブランシュがプルーストに与えた影響が明らかになってきた。 一つ例を挙げるならば、ジャック=エミール・ブランシュの『ルビュ・ブランシュ』への貢献についてである。プルースト自身も寄稿していたこの雑誌は、ブランシュの美術批評の発表の場でもあった。二人の関係を考えれば、プルーストがこのブランシュの批評を目にしていたと考えるのが自然である。このような観点から、ブランシュの美術批評を読み、プルーストへの影響があるかどうかを検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ロベール・ド・ラ・シズランヌ(1866-1932)はラスキンをフランスに紹介した後、イタリア・ルネサンスを対象とした批評を書いた。この美術批評への言及が『失われた時を求めて』に見られる点はこれまで必ずしも注目されてきたとは言えない。しかし、プルーストは、ラスキンを翻訳した後、つまり『失われた時を求めて』執筆時も、ロベール・ド・ラ・シズランヌの仕事に関心をもっていた。それは交わされた書簡によっても証明されるものである。以上の理由から、本研究はロベール・ド・ラ・シズランヌのLe Miroir de la Vie (1902) と Les Masques et les visages a Florence et au Louvre (1913)を調査し、それらの美術批評が『失われた時を求めて』に与えた影響を検証することで、一定の成果をあげることができた。また、プルーストとロベール・ド・ラ・シズランヌの間で交わされた書簡を通読することで、二人の関係がどのようなものであったのかを明らかにした。 本研究は、さらに、画家ジャック=エミール・ブランシュの生誕150年にあたる2011年以降に出版された新しい資料を収集した(Y・サン=ローラン美術館カタログ、ディエップ美術館カタログ、Jane Roberts 編纂の画集、Jacques-Emile Blanche. Peintre, ecrivain, homme du monde、Jacques-Emile Blanche, portraitiste de la Belle Epoqueなど)。これらに含まれる新しい資料を利用しながら、プルーストとブランシュの関係を美術批評という観点から調査した。
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Strategy for Future Research Activity |
専門的美術史家からの影響、画商・コレクターへの訪問、美術批評家との交流、この三点から本研究は、これまで、プルーストが美術作品を受容する歴史的な状況を実証的に明らかにしようとしてきた。これらの研究の成果を踏まえ、この広い意味での美術史学の状況が、どのようにプルーストの作品『失われた時を求めて』に反映されているのかを調査することにしたい。 プルーストが実際に見ていた作品を特定するのではなく、言葉として表現された美術史・カタログ・批評に対する作家の記述を調査対象とすることで美術を知としてどのように捉えたかが明らかになると考えられる。以上をもって、プルーストと美術史学の関係を総体的に描き出すことが本研究がこれから推進する方策である。
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Remarks |
図書Proust et les amateursは平成30年度に出版される予定であったが、出版社の都合で出版が延期され令和2年4月に出版された。令和元年度の成果として改めて記載するのはそのような事由による。
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Research Products
(1 results)