2017 Fiscal Year Research-status Report
東アジアにおける蘇軾「和陶詩」の受容と発展に関する研究
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17K13430
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
原田 愛 金沢大学, 学校教育系, 准教授 (50638294)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 蘇軾 / 和陶詩 / 蘇門 / 黄庭堅 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は北宋の文壇を牽引した蘇軾の文学の中でも、六朝東晋の隠逸詩人陶淵明の詩文124篇に唱和した「和陶詩」の継承過程を系統的に考察することを目的とする。蘇軾の文学、中でも晩年の代表作である「和陶詩」は時代を越えて読み継がれ、そのことを論及するものは多数存在する。しかし、それは現存の中国におけるテキスト系統を整理した考察や陶淵明と蘇軾の関連性に終始した論説で、彼の弟子や後世の文人が詠んだ「和陶詩」を具体的に究明したものはあまり見られず、日本や朝鮮半島への影響にも注意が払われてこなかった。蘇軾「和陶詩」のテキストと後人の「和陶詩」創作という二つの継承過程を、東アジア全体に与えた影響とともに系統的に解明することで、蘇軾研究だけでなく、陶淵明受容研究・比較文学研究など各研究分野の発展にとっても大いに意義が有ると言えよう。 前年の28年度において、弟の蘇轍やいとこの程之才などの協力を得て「和陶詩」の文集編纂に至った過程を辿り、かつ、南宋から元にかけて出版された文集7本の流伝について、系統的に網羅した研究を行った。その成果を「蘇軾『和陶詩集』編纂考」としてまとめ、平成29年5月『日本宋代文学学会報』第3集に掲載された。また、蘇軾を師とする文人集団「蘇門」における「和陶詩」継承を考察するために、まず門人筆頭である黄庭堅について分析し、平成29年12月『中国文学論集』第46号に「黄庭堅における蘇軾追悼の詩―「帰去来兮辞」の追和に代わるもの」として掲載された。また、蘇軾以前の文人の陶淵明受容について、蘇軾や蘇門の門人たちに影響を与えたと思われる李白・白居易・柳宗元を中心に調べている。 これらの考察により、「和陶詩」テキストの編纂と流伝、そして、蘇軾・蘇轍の直近の弟子への継承課程を一部明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成29年度で行うべき、蘇軾の薫陶を直に受けた弟子の筆頭格である「蘇門四学士」の和陶詩の継承課程や様相を調査したところ、それぞれが北宋において文壇で活躍した詩人であるために、独自の詩論や継承の特色があって一つの論文にまとめきれず、まず黄庭堅の考察を行うにとどまった。ほか3人の晁補之・張耒・秦観の考察については、更に資料収集を行う必要があり、当初の予定であった一ヶ年で終わることができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
蘇門四学士のうち、晁補之・張耒・秦観の「和陶詩」については、30年度8月までに発表および論文作成を行う予定である。同時に、李白や白居易、柳宗元などの唐代の詩人の陶淵明受容の作品が、蘇軾や彼ら門人たちの創作に影響した過程も考察したい。 また、唐代までの詩人の陶淵明受容については、日中の学界でそれぞれの専門家による考察が行われていた。そこで、平成30年3月に大学紀要において中等教育の教材として活用する研究レポート「漢詩教材研究―李白「山中問答」を読み解く」をまとめた。30年度以後も幾つかを教材研究のレポートとしてまとめるつもりである。 そして、30年度8月から夏休みを使って、南宋および金・元の文人の「和陶詩」の資料収集および分析を行う。これについては31年度10月から3月までに考察をまとめ、発表および論文作成を行う予定である。
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Causes of Carryover |
当初、国際学会である「中国宋代文学学会」に参加する予定であり、その際に旅費や学会参加費、発表論文のネイティブチェックの謝金、現地で収集した資料の書籍の物品費などが発生するはずであった。しかし、29年度は主に資料分析と論文作成を行うことにしたため、学会に参加することができなかった。次年度には、国内外の学会に参加するほか、資料収集を積極的に行うつもりである。
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