2017 Fiscal Year Research-status Report
明末清初の商業出版における同族書坊の広域的経営の実態の研究
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17K13431
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
上原 究一 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (30757802)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 中国文学 / 書誌学 / 書坊 / 出版文化 / 商業出版 / 覆刻・翻刻 / 版本 / 章回小説 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、明末清初に同じ一族の営む書坊が離れた地域間で連携しながら広域的経営を行っていた事例がどの程度あるのかを精査することで、当時における同族書坊による広域的経営の実態を把握することを目的とする。 当該年度には、福建省・江蘇省・江西省の地方誌の検索が可能なデータベースソフトを購入して利用したほか、東京大学、蓬左文庫、愛知大学、国立公文書館、京都大学などへの出張調査を行って、以下の研究成果を得た。 論文「いわゆる舒載陽本『封神演義』の刊行者について」では、あまり研究が進んでいなかった太末舒氏の書坊について調査し、この一族が営む書坊が明末清初に南京と蘇州に存在したこと、わけても舒文河(冲甫)という人物はその両方で出版活動を行っていたこと、舒氏はこのほか杭州でも出版活動を行っていた可能性もあることを明らかにした。 東方学会秋季学術大会における口頭発表「明末清初の坊刻における江西の位置付けについて」では、宋代から出版が盛んであった江西の出身者が、明代後期に南京に移住して商業出版を始めて嘉靖末以降の商業出版の興隆の主要な担い手となったことを指摘し、異姓書坊間の広域的連携と同族書坊による広域的経営という両面への注意を促した。 また、本研究計画の出発点のひとつである2016年の口頭発表「関于容与堂刊本小説、戯曲」を、2018年5月刊行予定の『中国古典小説研究の未来』(勉誠出版)に収録される論文「虎林容与堂の小説・戯曲刊本とその覆刻本について」の形にまとめ、杭州の書坊容与堂の手がけた現在知られる6種の刊本(小説1種と戯曲5種)の全てに覆刻本も現存すること、戯曲についてはそれぞれに2版以上の覆刻本が現存することを示し、容与堂が各地の異姓書坊と広域的連携を持っていた可能性のほかに、広域的経営を行っていた可能性も考えられることを指摘した。 このほか、関連する問題を扱う口頭発表3つを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画時点で重点的な調査対象として想定していた葉氏や劉氏の書坊については論文にまとめられるほどのはっきりした事例を年度内に見出すことは出来なかったが、その一方で研究計画を立てた段階では広域的経営の事例としては把握出来ていなかった太末舒氏の事例を論文にまとめて公表するところまで進んだのは、当初の計画を大きく上回る成果である。これらを差し引きすれば、当初の計画で見込んでいたのと同等以上の水準の成果が得られていると言えよう。また、計画の出発点となった容与堂刊本の覆刻事例について論文の形にまとめることが出来たのも順調な成果であり、次年度にはこれを発展させた更なる進展が見込める。 計画時点で年度内に参加する予定だった中国における2つの国際学会がいずれも日程が変更になったために参加することが出来なかったが、それらとは別の3つの国際学会または国際シンポジウムで口頭発表を行ったので、国内外の研究者との情報交換の進展という面でも、差し引きすれば当初計画と同等以上の成果を得られている。 中国における国際学会に参加出来なかったことでそれに伴う開催地近隣の図書館の調査も流れてしまったことと、次年度から研究代表者が他の研究機関に移ることになってその準備に時間を割く必要が生じたために冬休みまたは春休みに予定していた海外出張が行えなかったこととによって、海外の図書館の所蔵資料の調査に関しては当初計画に比べて遅れが生じてしまっているが、国内での調査と購入したデータベースの活用だけでも上記の成果を挙げることが出来たので、総合的に見ておおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
計画段階では参加を予定していたものの開催日程が変更されたため平成29年度には参加することが出来なかった「中国古代小説・戯曲文献及数字化国際研討会」が、平成30年には8月にドイツとオーストリアで開催されることが決まっているので、それに参加して研究成果の発信と情報交換を図る。 それから、研究代表者が平成30年度から研究機関を移ることになった影響で平成29年度には行えなかった北京や上海への出張調査を実施して、明末清初に同族書坊が異なる地域に展開していた事例の更なる把握に努める。 また、現存する容与堂刊本はいずれも「李卓吾先生批評」と銘打った小説または戯曲なのだが、容与堂の関与が確認出来ないものも含めて、明末清初に「李卓吾先生批評」を銘打って刊行された現存する全ての戯曲刊本についての覆刻本の有無の様相が、これまでの調査でかなりのところまで明らかになって来ている。その全容を把握することが出来れば容与堂の経営規模や経営方針についての解明に役立つことが見込まれるため、平成30年度はまずこの問題について重点的に調査を進めて、東方学会平成30年度秋季学術大会において口頭発表を行いたい。その上で、その成果を年度内に論文にまとめ、公表の目途を立てることを目指す。なお、これに関連して、「李卓吾先生批評」と銘打つ戯曲刊本のひとつである『李卓吾先生批評無双伝明珠記』の影印を初めて収めた叢書『大連図書館蔵珍秘戯曲古籍叢刊』がちょうど中国で刊行されたところである。他にも本研究に資する資料が影印されている叢書なので、購入を検討中である。
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Causes of Carryover |
参加予定だった中国で開催される国際学会2つの開催日程が変更されたために参加不能になったことと、研究代表者が次年度から別の大学に移ることになってその準備のために冬休みと春休みに海外への出張調査が行えなかったことによって、それらの海外出張のための旅費及び調査先での資料複写費として見込んでいた分が浮くことになった。 その全てを他の使途にまわして年度内に消化してしまうよりも、使い切れない分は次年度に新たな所属先で腰を据えて出張調査や資料の複写、或いは図書の購入等の費用に充てる方が効果的であると判断したため、次年度使用額が生じることになった。具体的には、本研究に大きく関わる複数の資料の影印を収めた高額な叢書『大連図書館蔵珍秘戯曲古籍叢刊』が中国でちょうど刊行されているので、その購入を検討しているところである。
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