2017 Fiscal Year Research-status Report
敬語の習得・加齢変化とその話者属性差に関するマクロ社会言語学的モデルの構築
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17K13443
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
柳村 裕 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 研究員 (50748275)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 敬語 / 丁寧語化 / 対者敬語化 / 話者属性 |
Outline of Annual Research Achievements |
敬語の習得と変化に関する理論的モデルの構築と検証のために、国立国語研究所による大規模経年発話資料「岡崎敬語調査資料」の整備と再分析を行った。話者の「職業」という新たな分析指標を加えることでこれまでの研究を発展させ、話者の生涯での敬語習得の時期や、敬語使用の加齢変化パターンに関する記述的資料を蓄積した。 2017年度は、既存の岡崎敬語調査資料の再集計・再分析を行った。職業などの話者属性ごとに、各種敬語形式の使用数の変化を「見かけ時間」および「実時間」で分析し、個人内での敬語習得・変化パターンを記述した。その結果、敬語の習得時期およびその後の敬語使用特徴の加齢変化パターンが、話者の職業によって異なることを明らかにした。具体的には、高学歴話者の多い「事務・管理的業務」に携わる職業では、発話の丁寧さが相対的に高く、また、対人コミュニケーションを主要な職務とする「接客」に携わる職業では、成人後の敬語使用数の増加(敬語の成人後採用)が他職種に比べて顕著に見られた。職業などの話者属性によって、敬語の習得、使用、変化が異なることを示す結果であった。 以上は日本語の敬語の個人内での変化(個人の生涯における加齢変化)の分析だが、一方で、日本語の敬語使用全体の変化傾向についても分析を行った。日本語の敬語のうち、素材敬語すなわち尊敬語と謙譲語に着目し、その使用数の変化を集計・分析した。その結果、3回の岡崎敬語調査が行われた期間において(1953年~1972年~2008年)、素材敬語の使用数が減少していることが分かった。素材敬語は、その一部が機能を変化させ、対者敬語すなわち丁寧語的用法が増えていることがすでに知られていた(対者敬語化、丁寧語化)。本研究では、こうした機能的側面の変化だけでなく、使用数の側面についても素材敬語が衰退し、日本語の敬語全体として丁寧語化という変化が進行中であると解釈した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
岡崎敬語調査資料の再整備と再分析と、話者属性という新たな観点からの発展的分析は、概ね順調に進展した。ただし、種々の話者属性項目のうちの一部と、話者の言語意識項目についての集計・分析は、当初の計画より遅れている。これは、研究の過程で新たに重要な課題が浮かび上がり、それに取り組むことを優先したためである。 上述の個人内での敬語使用の変化を分析する過程で、新たに、(個人内だけでなく)日本語の敬語使用全体における素材敬語使用の減少が発見された。こうした日本語の敬語使用における大きな歴史的変化傾向の分析は、本研究の当初の計画には含まれていなかったものの、本研究の目的である日本語の敬語の使用とその変化の記述および理論的考察における学術的貢献・意義およびインパクトが非常に大きいことが見込まれる。このため、当初の計画に無かった素材敬語使用の減少に関する集計・分析を優先する判断をした。この分析はその初期的報告(日本語学会での口頭発表)を行うまでに進展した。 以上を総合すると、本研究課題全体としての進捗状況は、概ね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度は、前年度の研究成果(口頭発表2件、論文無し)に基づく論文執筆作業を中心に進める。2017年度に行った個人内での敬語習得時期と使用パターンの加齢変化の記述、およびその話者属性による差異の記述と分析について、2016年以前の研究成果とも統合し、論文を執筆する。また、2017年度に新たに着手した素材敬語使用の減少に関する分析では、2017年度の初期的報告に統計的分析を加えての集計・分析の精緻化を行った上で、論文の執筆に取り掛かる。2017年度に進展が遅れた話者属性項目および話者の言語意識項目の集計については、対象項目とその集計方法などの準備が整っており、2018年度に本格的に着手する。
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Causes of Carryover |
当初計画していた個人内での敬語使用の変化の分析に取り組む過程で、新たに重要な現象として日本語の敬語使用全体における素材敬語使用の減少が発見された。これは、日本語の敬語の対者敬語化・丁寧語化という大きな変化傾向に関わる現象であり、日本語の敬語論・敬語史分野における大きな学術的インパクトが見込まれる。このように新たに浮かび上がった重要な研究課題に取り組むことを優先したため、当初計画していた話者属性および言語意識項目の集計・入力作業の準備に遅れが生じた。その結果、こうした集計・入力作業を依頼する学生アルバイトへの謝金として計上していた予算が消化されず、次年度使用額が生じた。この集計・入力作業は、2017年度の進展は遅れたものの、現在準備が整っており、2018年度に実施する計画である。したがって、当該助成金は、2017年度の当初計画通りに謝金として使用する。翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画としては、2017年度に進展が遅れた研究を2018年度に実施するという点を除いて、費目別内訳等に大きな変更は無く、2018年度分は当初計画通りに実施する。
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Research Products
(2 results)