2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K13463
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
永澤 済 名古屋大学, 国際機構, 准教授 (50613882)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 和化漢文 / 変体漢文 / 漢文訓読 / 口語 / 文法 / 語彙 / 文体 / 古文書 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、実用文書を資料に、和化漢文と漢文訓読系文体の史的展開を研究した。成果は大きく(1)近代、(2)前近代にわけられる。 (1)近代 戦前、伝統を脱却し口語体判決を書いた裁判官たちの試行錯誤を追い、実用文書において漢文訓読系文体から口語体への脱却がどのように実現されたのかを分析した。その結果、口語体では当事者の主張の直接引用、裁判所から当事者への直接語りかけの形式等、現行(現代)の文体以上に読み手を強く意識したスタイルが用いられていることが明らかになった。一方で、文末形は旧来の「ナリ」「タリ」体を単純に「だ」「である」体に置き換えたり、文語を逐語訳的に口語に置き換えるなど、伝統のスタイルを大きくは脱していない面もみられた。こうした口語化の試みは様々な困難を伴ったが、そのひとつは口語による自由な表現の追求が「卑俗」「冗漫」に陥ることなく、漢文訓読系文体の「威厳」「洗練」をどのように維持するかという点にあったこともわかってきた。 以上により、古来日本の公文書をなす主要な文体であった漢文訓読体が、近代末に口語体へと変移した実態を、主に言語と思想の観点で具体的に示すことができた。 (2)前近代 前近代の和化漢文資料(主に訴訟関係文書)を調査し、文法と語彙の観点から分析・記述を行った。第一に、和化漢文の文体成立を考えるうえで特に重要とみられる文法現象の実態を記述した。それらの文法現象には、個別性の強いものと、一般化したものとが混在しているが、本研究では、その混在の実態こそ「和化」の反映としてともに重要視し分析を行っている。そして、一般化した文法現象については、その規則を分析した。第二に、同じく和化漢文の文体成立を考えるうえで重要とみられる古文書語彙を収集し、意味を記述し、その意味に歴史的変化がみられるものについては変化を考察した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記「(1)近代」については、成果の一部を論文等のかたちで公表することができた。「(2)前近代」については、変体漢文の文法現象と語彙に関して多角的に考察し、一部について結論を得られたので、論文等のかたちで公表予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度の「和化漢文」に関する成果を論文として公表するとともに、継続して文法と語彙の両面からその分析に取り組む。あわせて、和化漢文を成立させた社会的背景(階層・学問・交流等)についても周辺分野の成果を基礎として考察する。 「仮名文書」の研究に着手し、当時の口語、特に庶民語について考察する。特に仮名で書かれた漢語に着目し、書き言葉であった漢語が、どのように庶民の口語として定着したのかを分析する。また、意味が未解明の仮名書き語について意味を明らかにしたい。 近代について、植民地期の日本関係資料により口語化の実態と思想についての研究を深化させる。また、近代国内外で執筆された日本語教科書を新たに資料とし当時の口語と漢文訓読体について調査する。以上の研究により、近代と前近代との断絶と連続性について考察したい。
|
Causes of Carryover |
本年度中に公表することをめざしていた論文の公表を次年度に見送ったため、人件費・謝金をその校閲・翻訳に使用する予定である。本年度は、学内およびインターネット上の無料の資料を活用できたため、資料収集費が予定より少なかったが、次年度は新たに予定している植民地期資料・近代日本語教科書をはじめ、実用文書資料収集のための物品費・旅費・複写費として活用する予定である。
|
Research Products
(4 results)