2020 Fiscal Year Research-status Report
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17K13464
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
山本 佐和子 同志社大学, 文学部, 准教授 (00738403)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 中世語 / 集成抄物 / 古典注釈 / 杜詩抄 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中世室町期の「抄物」について、多くの先行説を類聚・列挙した「編纂抄物(集成抄物、取り合わせ抄物)」の言語研究資料としての性格を明らかにすることを目的として、文献資料の発掘・調査と言語事象の記述研究を行っている。本研究課題以降には、この種の抄物について、抄物の成立時期半ばの1530年頃から最末期の織豊期にかけて、公家・高家に漢籍注釈書として受容される様相を書誌学・文献学的調査によって明らかにし、その言語的特徴の由来を考察する予定である。 今年度は、2018年度に研究発表した、中世後期~近世の注釈書における文末表現「~トナリ」について使用実態と文法的性格を論文にまとめ、抄物の成立背景と言語的特徴は、抄物と同時期の古典講釈・注釈史の中で捉え直す必要があることを指摘した。 本研究では一昨年度までに、建仁寺両足院蔵「杜詩抄」に一般の仮名抄には殆ど見られない文末表現「ヂャ」や「ゾウ〈候゛〉」等が認められることを指摘してきたが、「~トナリ」もその一つである(約220例使用)。一方で、「~トナリ」は近世以降の通俗的な注釈書・学習書では多用されている。論文では、注釈表現「~トナリ」が、応仁の乱以降、即ち、口語的な仮名抄の多くが作られた時期と同時期に成立した「源氏物語」「伊勢物語」等の和文の注釈書で、原典の解釈(当代語訳)を示す用法で多用されるようになる実態を明らかにした。 注釈書においてこの種の定型的な「~トナリ」が多用された要因には、当時の言語変化(亀井孝「言語史上の室町時代」『図説日本文化史大系』4、1957年)及び、古典の受容層の拡大・変容による注釈書の質的変容(伊井春樹『源氏物語注釈史の研究 室町前期』桜楓社、1980年)が関わっていると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、本務機関での校務が学科教務主任の担当、及び新型コロナウイルス対応で急増したため、本研究課題は当初より計画が遅れ、1年間の延長を申請することとなった。 なお、20年8月以降、一部の所蔵先では現地調査が可能となったため、2019年度の調査で見出した「古文真宝後集」の抄物と原典について、調査を再開している。 「古文真宝後集」の抄物・原典については、現存の写本、古活字版・整版から、五山僧が作成した抄物や訓点が、当時、博士家以外の公家・上層武家に広く受容された実態が伺われる。諸本の調査を進める中で、昨年度、調査を行った、大阪府立中之島図書館蔵『増刊校正王状元集注分類 東坡先生詩』(25巻28冊)の書入れ抄の作成者、文英清韓〔1568-?1624〕が版行に関わったと考えられる「古文真宝後集」の古活字版・整版、及び清韓が出版したと推測できる仮名抄の版本の作成者を特定することができた。 本研究では昨年度までに、編纂抄物について、「四河入海」や府立中之島図書館蔵書入れ抄のように先学による先行抄を明示して学僧・学者に伝授される抄物と、両足院蔵「杜詩抄」のような「私抄」と称するものとが区別できる可能性を見出した。「私抄」系の編纂抄物の発生には、漢籍や和文の古典を平易な仮名文で理解したいという受容者の存在が大きな要因となることが、今回、作者を特定できた仮名抄の作成経緯の解明によって明らかにできると思われる。 本研究課題内で、当該の仮名抄「彭叔守仙抄古文真宝抄」について、作成経緯および内容・言語面の特徴を報告し、今後、版行されて広く受容された編纂抄物と、林宗二の晩年3部作の「私抄」とを比較しながら考察する手がかりとする。
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Strategy for Future Research Activity |
21年度は、本研究で得られた成果の公表と、次の課題に向けての現地調査、資料収集を進める。 まず、「杜詩抄」の文末表現「ヂャ」について、同時期の林下の抄物及び、後水尾院講釈での「ヂャ」の使用と併せて、天正期以降の注釈書を特徴づける文末表現として捉え直す。また、意味・用法及び、文法的性格についても、「~トナリ」の考察を経て再考が必要と判明したため、改めて説明を行う。モダリティに関して、「ゲナ」と同じく抄物で広く使われる「ツラウ」(<ツ+ラム)について、従来の説明では解釈できない意味・用法が狂言歌謡に認められるため、上記の末期抄物の状況も調査して史的変遷を明らかにする。 また、林宗二の晩年の漢詩の三部作「山谷抄」「東坡抄」「杜詩抄」がいずれも「私抄」と称する理由について、彭叔守仙抄古文真宝抄の事例と併せて考察する。私抄の出現には、同時期の和漢の古典の受容状況が大きく関わっていると考えられる。抄物の文化的背景については、本研究課題以降に改めて詳しく考察するが、関連資料の収集を開始する。 文献資料の調査・報告は、所蔵先の保存・管理を微力ながらサポートすることとなり、コロナ禍でも継続は必須である。状況に応じて、近隣の現地調査のほか、業者撮影の企画などを引き続き行う。
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Causes of Carryover |
コロナ禍によって、①本務機関における校務が増大したこと、②文献資料の現地調査が度々不可能な状況になったこと、③近世以前の版本の流通が減り入手しづらくなったこと、等、大きな影響があり、予定した計画どおりに研究を進めることが出来なかった。 次年度は、調査対象資料の整備(現地調査の再開、および業者撮影の企画)、及び、考察に必要な専門書を計画的・体系的に収集することで、コロナ禍でも研究を安定して継続できる態勢を整える。
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Research Products
(1 results)