2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K13465
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
平子 達也 駒澤大学, 文学部, 講師 (30758149)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 出雲方言 / 歴史言語学 / 日本祖語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,出雲仁多方言と古代日本語の間に認められる音対応法則について,代表者自身が得たデータに基づいて検討を行い,出雲方言の日本語諸方言の中での系統的な位置付けについての重要な示唆を得ることができた。まず,代表者は,古代中央方言と仁多方言とを比較し,その対応関係から仁多方言において,特定の環境で *i > e 及び *u > o という「母音の低下(vowel lowering)」が起こったと考えられることを明らかにした。一方,出雲方言では「薬」を意味する語として kuso:という形の語が見られるが,これは,上代語の kusuri という形式を出雲方言の祖形とすると,仁多方言では kusa:という形で現れるはずであるので,音対応の例外となる。しかし,出雲方言を,日本祖語(日本列島に分布する諸方言の祖語)から分かれ出た中央方言と姉妹関係にある方言と考え,その kuso:の母音 o は先行研究によって祖語の段階に再建された*o を保存するものだと考えることで,kuso:という形式は,例外とはならず,その歴史的成立過程について無理なく説明できる。従来,出雲諸方言については,その方言内部における音変化の過程について,比較歴史言語学的観点から検討されることはなかった。本研究は,出雲方言の音韻体系,特に母音の分布について比較歴史言語学的観点から考察した初めての研究である。また,出雲方言の音韻体系に関する共時・通時両面からの精密な記述が,日琉諸方言を対象とする比較歴史言語学的研究に貢献し得ることを示すものでもある。 また,出雲方言内部の歴史についても,研究成果の公表は追いついていないが,調査は進んでおり,次年度以降に研究成果をまとめたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
既に述べたように,本年度,出雲方言の日本語諸方言内部における位置付けについて重要な研究成果を得ることができた。この点は,申請当初の予想を上回る成果であり,特筆されるところである。 一方,これも既に述べたとおり,出雲方言内部の歴史については,調査は一定程度進んでいるものの,成果の公表が必ずしも順調ではない。 以上を総合的に判断して,「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の出雲方言の日本語諸方言内部における位置付けに関する研究成果については,追加調査を実施し,年度内に論文化をしたいと考えている。また,出雲方言内部の歴史については,データの整理を中心に進めながら,さらなる調査によるデータの積み重ねを行い,来年度早々に研究成果を公表できるように準備したい。
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Causes of Carryover |
研究代表者,研究協力者ともに,校務多忙により,調査を計画通りに行えなかった事による。2019年度は,2018年度よりも時間的に余裕があると考えられるので,当初予定よりも調査を増やす計画であり,「次年度使用額」はそれに当てる予定である。
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