2017 Fiscal Year Research-status Report
複合語と句の間に見られる共通点と相違点―分散形態論の立場から―
Project/Area Number |
17K13473
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Research Institution | Ibaraki Prefectural University of Health Science |
Principal Investigator |
大久保 龍寛 茨城県立医療大学, 保健医療学部, 嘱託助手 (80781377)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 生成文法 / 分散形態論 / 統語部門 / 句 / 複合語 / 焦点投射 / 等位構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は分散形態論の枠組みに基づき複合語と句の間に見られる共通点および相違点を明らかにするものである。分散形態論では、語構造は、句構造同様、統語部門で構築されることになるため、複合語と句の間には統語構造上の共通点が存在することになる。この仮説に基づくと、複合語には語の特性だけでなく句の特性をも示すものが存在することになる。本年度は、このような複合語のうち、英語の属格複合語とX'n'Y複合語を対象とし、特にその句の特性に焦点を当て、研究を遂行した。 まず、属格複合語(例:women's magazine)は、名付け表現として使用可能である点で語の特性を示す(島村 (2014))。その一方で、同複合語は、対象焦点の文脈(例:Taro went to King's college, while Mary went to Queen's.)において主要部要素の削除を許す点で句の特性を示すといえる。この句の特性は、焦点投射の存在により説明される。Cover and van Koppen (2009) によれば、焦点投射の主要部と指定部が一致することで補部要素が削除される。 次に、X'n'Y複合語(例:Rock 'n' Roll)であるが、当該複合語は、属格複合語同様、名付け機能を有する。さらに、等位接続要素の重複や削除などにおいて、句に見られる等位構造と同様のふるまいを示す(例:bananas 'n' peaches 'n' cream shake や bananas peaches 'n' cream shake)。ここから、X'n'Y複合語は、句と同様の等位構造を有すると分析した。 なお、属格複合語とX'n'Y複合語の語の特性がどのように導出されるかについては、次年度の課題として取り組んでいく所存である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度では複合語と句に通底する統語構造の存在を一部明らかにすることができた。この点で本研究は順調に進展しているといえる。しかし、両表現の相違点の説明については本年度で着手することができなかった。例えば、句の一部には統語的な移動が適用できるのに対し、複合語の一部には適用できない、といった違いが挙げられる。このような統語操作の適用に関する相違点を、名付け機能に関する相違点と共に、分散形態論の枠組みでどのように説明するかが課題として残ったままである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では特に複合語と句の相違点に焦点を当てた研究を行っていく。分散形態論の枠組みで複合語と句の違いを導出する方策として考えられる可能性に、複合語と句では形態部門において適用される操作がそれぞれ異なるという可能性がある。形態部門とは統語部門の出力を音へと変換する役割を担う部門である。この形態部門には様々な操作が存在するが、その操作の中には複合語特有の音形を生み出すものがあり、句の場合にはその操作が適用されないため、複合語が示す語の特性が見られないことになると考えられる。統語部門と形態部門の相互作用から複合語と句の相違点を説明していくことが今後の研究の中心課題となる。
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Causes of Carryover |
当初は句と複合語の間に見られる共通点のみならず相違点の説明についても本年度の射程に入っていた。そのため両特性に関連する文献を収集する資金として物品費がある程度必要であった。しかし、本年度では両表現の共通点に着目した研究が主となったため、相違点に関する文献は収集しなかった。その分が次年度使用額として生じたことになる。次年度は両表現の相違点を説明することに時間を費やす予定であるため、使用できなかった分についても次年度で十分に活用することが可能であると考えられる。
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