2017 Fiscal Year Research-status Report
共通語としての英語(ELF)使用実態を踏まえた教育実践に関する質的調査と教育提言
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17K13508
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Research Institution | Kanda University of International Studies |
Principal Investigator |
小中原 麻友 神田外語大学, 外国語学部, 講師 (80580703)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 共通語としての英語 / 教育効果 / 言語意識 / アイデンティティ / 言語使用 / コミュニケーション能力 / 積極的にコミュニケーションを図ろうとする意欲 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ELF使用実態を踏まえたインストラクション(以下INS)がもたらす長期的な教育効果を、主に学生の英語使用者としての意識とアイデンティティ(意識調査)、実際のコミュニケーションにおける言語使用(録音調査)に焦点を当てて解明し、グローバル人材に必要な英語コミュニケーション能力育成の為の具体的示唆を示すことを目的とする。初年度のH29は、1. INS受講中の学生の意識調査と、2. INS終了後の追跡調査(意識・録音調査)を開始したが、収集データの分析は意識調査を中心に進めた。以下、上記2項目の方法と成果について詳述する。 1.意識調査:【方法】前後期、各2、計4クラスの専門科目の授業の履修者を対象に実施。学期中2、3回のリフレクション・レポート、最終授業時のアンケート(共にGoogle フォームあるいは大学授業支援システムを使用)に加え、授業毎のリアクション・ペーパー(紙媒体)も収集。回答はその内容を質的に分析(Excel、NVivo使用)。【成果】分析の結果、INSを通して学生の意識は、文法的な正しさや発音、ネイティブらしさに固執するENL志向的なものから、英語の多様性や意思疎通することを重要視するELF志向的な意識に次第に変化することが分かった。 2.追跡調査:【方法】履修者の中から希望者を募り、各学期2名ずつ計4名の協力者を得る。意識調査にはオンライン日誌(Googleドキュメント使用)の記入を、録音調査にはICレコーダーを貸与の上、録音データはGoogleドライブに保存を依頼。収集データはその内容を質的に分析。【成果】データ量の多い協力者1名の意識調査の分析を中心に進めた結果、INSを通してELF志向的に変化した意識が、留学先での実際のELF経験を通して強化される一方で、発音を直される、会話に入れない等の経験は劣等感や「正確な発音」の習得欲求に繋がることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
H29は主に意識調査を中心にデータ収集と分析を進めた。分析の結果、INSが学生の英語で意思疎通を図ろうとする意欲にプラスの効果をもたらすことがある程度明らかになった。INS開始時、母語話者の英語(ENL)を規範とする文法的正しさや発音を肯定的に評価する一方、その規範から外れる非母語話者の多様な英語については間違いとして否定的に評価し、自身の英語にも劣等感を抱く学生が多かった。しかし、INSを通して学生は英語の多様性を徐々に肯定的に捉えるようになり、これに伴い自身の英語についても自信を持つようになった。また、ELFの会話では多様な英語の理解力と相互理解を達成する能力が重要であるというELF志向的な意見を持つ学生も増えた。この傾向は、INS後も実際のELF経験を通してある程度強化されることが追跡意識調査で判明した。ELFの役割や多様な英語、相互理解達成の重要性を実感すると同時に、より効果的に意思疎通を図る為に意識的に言語使用を調整する例も報告された(見過ごす方略より問題解決の為の方略を使用等)。また、英語使用者としてのアイデンティティには流動性が見られた。英語力が対等と感じる日本人以外の学生とは緊張せず話せるが、そうではない相手とはうまく話せない。加えて、聞き取って貰えない、発音を直されるという経験は、自身の英語力に対する劣等感と「正確な」発音の習得欲求に繋がることも分かった。意識調査が順調に進んでいる一方、録音調査は遅れている。追跡調査のデータは協力者によって偏りはあるものの、着実に集まっている。しかし学期中の調査は、履修者数や授業運営の問題で英語科目の授業での録音調査を見送ったこともあり、体系的にデータ収集できていない。また意識調査の分析に時間が掛かった為、会話データの文字起こしと分析が進んでいない。以上のことから判断して、H29の研究計画はやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
INSがもたらす長期的な教育効果を質的に検証する本研究を今後推進していくには、H29の研究の遅れを取り戻すと同時に、追跡調査を強化していく必要がある。 研究の遅れを取り戻すには、1. 録音調査で収集した会話データの分析を推し進めつつ、2. H30の意識調査・録音調査のデータ収集、分析の充実化・効率化を図る必要がある。1の具体的方策としては、会話データをよく聞いて該当箇所を選定した上で、文字起こしの一部を業者に依頼することが考えられる。相互作用中の言語使用の分析には会話分析的手法の使用が適しているが、その文字起こしには膨大な時間を要する。一部文字起こしを業者に委託することで研究の促進を期待できる。2の具体的方策としては、意識調査のデータ入力効率化のためにGoogleフォームやドキュメント、OCR機能を活用する、H29に見送った英語科目授業での教室内活動の録音・録画を含むデータ収集を実施する(授業内活動の一環として実施)、質的分析ソフトNVivo(Windows用ソフトの為Mac OS上でWindowsを実行するソフトを購入)を活用する等を考えている。 また追跡調査を強化するためには、1. H29からの研究協力者4名の追跡調査を継続すると同時に、2. 新規の研究協力者数を増やす必要がある。1については、1名を除いて(参加継続できるか否か相談予定)、問題なく継続できる見込みである。2については、各学期の該当の専門科目授業3つから1~4名ずつ(計3~12名)研究協力者を募るのに加え、英語科目授業2つからも1~2名(計2~4名)の協力者を募ることで人数の確保を目指す。研究協力中、可能な限り多くのフィードバックを与えることで、追跡調査への参加の継続を目指す。なお、研究参加者の数の確保が難しい場合は、一つ一つのケースを丁寧に分析することで、考察の深化を目指す。
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Causes of Carryover |
H29からの繰越額208,835円にH30の交付予定額500,000円を合わせて研究推進のために効率的に使用する。次年度使用額が生じたのは、作業の効率化を図るために古くなったパソコン環境を改善する必要が出たためである。これにはパソコンの新調(Mac OS)とWindows用の質的分析ソフトNVivoをMac OS上で使用するために仮想化ソフトの購入が含まれる。研究のさらなる促進と展開のため、追跡調査の研究協力者への謝金、H29の研究の遅れの原因である録音調査の分析の推進のために文字起こし作業の業者への謝金にも充てたい。また、研究の深化を図るための文献調査のための費用と、分析結果から得られた知見をまとめ、国内外の学会や学術論文で積極的に公表するための必要経費にも充てたい。
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