2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K13535
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
山本 英貴 帝京大学, 文学部, 准教授 (90711101)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 幕藩関係 / 老中 / 奥右筆 / 御用頼 / 行列道具 / 両敬 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者の研究は、①大名家が御用頼の契約を結んでいる幕府役人(端的に言えば当該大名家と懇意)に幕府へ提出する願書を添削してもらい、その願書を老中に提出するまでの過程、②老中が大名家より受理した願書の採否を決定し、その結果を大名家に通知するまでの過程を具体的に明らかにすることで、江戸幕府の政務処理の流れを復元するとともに、幕府と藩との関係について解明を試みるものである。 上記目的のうち、②については論文A「江戸幕府の政務処理と幕藩関係‐家斉期の行列道具を素材として‐」(『史学雑誌』第126編第6号、2017年)を執筆し、大名家は願書を受け取りの窓口となる月番老中のもとへ提出し、月番老中は願書を審査に相応しい関係役人のもとへ回すこと、関係役人は月番老中に願書および願書の採否について記した評議書を返却したこと、月番老中は願書と評議書をもとに他の老中と合議のうえ、最終的な採否を決定して大名家に結果を通知すること、という流れを復元することができた。 今後は、論文Aの成果にもとづいて家斉期(19世紀前半)を分析の対象とし、当該期の①に関する史料を蓄積していく。その一環として、平成29年度は山口県文書館および早稲田大学中央図書館において未活字の関係史料を収集した。収集した史料については、研究協力者と分担して筆耕を進めている。 また、①に関する成果として、論文B「岡山藩の自分仕置と対幕藩交渉‐江本竹蔵一件を素材として‐」(『日本史研究』第667号、2018年)を公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で述べた通り、平成29年度は、本研究の遂行にあたって核となる論文Aと、その成果にもとづき執筆した論文Bの2本を公表することができた。 次に、山口県文書館に赴いて、①長府藩毛利家が本藩である萩藩毛利家や老中などの幕府役人に対し、長府藩主を幕府の役職に就けたいと運動している史料と、その動きをうけて萩藩毛利家が支藩である長府藩毛利家や幕府役人とどのような交渉を行ったのかを示す史料、②長府藩毛利家が分家にあたる清末藩毛利家(萩藩毛利家の支藩)に対して、それまで双方が同等の敬意を払った両敬から清末が長府にのみ敬意を払う片敬へと関係を変えたいと主張したことにより起こった、萩・長府・清末三藩間の争論に関する史料を写真撮影した。史料①・②の分析により、幕府と藩との関係はもちろん、本藩と支藩、支藩と支藩との関係についても考察が可能となる。 さらに、早稲田大学中央図書館が所蔵する岡山大学附属図書館所蔵『池田家文庫』マイクロフィルムのうち、論文②の執筆に必要であった史料と、現在分析を進めている岡山藩池田家が幕府に対して金紋挟箱と呼ばれる行列道具の所持を願い出るため、老中などの幕府役人とどのような交渉をしていたのか、その様子がうかがえる史料を複写した。 また、収集した史料はいずれも未活字のものであり、研究協力者と分担して筆耕を進めている。山口県文書館で写真撮影した史料のうち、半分程度は筆耕が完了した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、山口県文書館において写真撮影した未活字史料の筆耕を進めていく。それと同時に、すでに筆耕を終えた史料に登場する人名や地名について、具体的に誰・何処を指すのかを事典や研究書を参考に特定していきたい。写真撮影した史料の中には年号が付いていないものも多く含まれており、それらの年号を確定させていくためにも人名の特定は重要である。なお、未活字史料の筆耕および筆耕済史料の人名・地名・年号の特定について、どちらを重点的に進めていくかは、現在筆耕を分担してもらっている研究協力者と相談のうえ決定する。さらに、現在までに一件史料の写真撮影はすべて終えているが、同時期に作成された関係史料(萩藩毛利家の公的日記や萩藩士の私的日記など)については確認できていない。平成30年度も山口県文書館に赴いて写真撮影をし、一件に関わる史料を悉皆的に収集していきたい。 次に、平成29年度より分析を進めている岡山藩池田家が幕府に金紋挟箱を持ちたいと願い出るため、老中などの幕府役人と交渉していた一件について、その考察結果を論文として公表していきたい。分析中ではあるものの、この論文がまとまれば、大名家は自家の願いを実現するため幕府の老中と御用頼の契約を結んでいたが、そもそも契約を結ぶにあたり大名家は老中にどのように接近していったのか、その一例を提示することができる。なお論文公表の媒体としては、岡山藩研究会が発行する論文集を予定している。
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Causes of Carryover |
平成29年度は、当初経費として計上していた物品費と旅費について、その使用額が予想を大きく下回ることとなった。その理由としては、購入を予定していた書籍を所属機関の図書費で購入できたこと、山口県文書館へ複数回史料の写真撮影に赴く予定であったが、日本史研究会の大会において報告をすることとなり、その準備で同館へ赴く機会が減ったこと、があげられる。 一方で、写真撮影した史料は大量にあり、現在はその筆耕を研究協力者と分担して行っている。次年度使用額として生じた助成金については、本年度赴けなかった山口県文書館への旅費および史料筆耕のため研究協力者への人件費として使用していきたい。
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Research Products
(4 results)