2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K13536
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
宮川 麻紀 帝京大学, 文学部, 講師 (60757079)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 日本古代史 / 市 / ミヤケ / 交易者 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、大和国の東大寺領である佐保院と村屋荘について、考察を進めた。佐保院は9世紀初頭に成立したとされるが、8世紀から正倉院文書に佐保から物品の交易進上がなされていることや、長屋王や藤原氏の邸宅が置かれたことから、奈良時代にはすでに官司や貴族との密接な関係性がうかがわれることについて検討し直した。また、村屋も奈良時代から造東大寺司との関係性があり、後に東大寺・大安寺の所領となっている。さらに、当該地域がヤマト王権の中心部であることや、王権のミヤケと深い関係がうかがわれることから、律令制導入以前から王権の経済的拠点であったと考察した。 これらの寺領の検討から、律令国家やさらに遡ってヤマト王権の流通経済の拠点を見出すことが可能であり、従来の文献史料からだけでは分からなかった交易のあり方や交易拠点の開発・形成について、描き出すことができたと考えている。なお、今回の成果は論文として著書の中に含めるため、現在執筆中である。 また、研究計画には書かなかったが、備後国深津郡の深津市や、鞆の浦の海上交通についても検討を進め、史料を集めるとともに、現地踏査を行った。深津市は備後国のみでなく、讃岐国など瀬戸内海沿岸の他地域からも交易者が訪れる市である。その所在地や交易の特性を考えることで、日本列島各地に存在する交易拠点の形成や発展について明らかにすることができ、ヤマト王権や律令国家の流通経済を描き出すことができるので、今回、新たに調査・検討対象として含めることとした。 この研究の成果は、『帝京史学』第33号に「日本古代における交易圏の形成と展開」という論文として掲載された。また、古代の商人身分についても考察し、佐藤信編『史料・史跡と古代社会』に「律令国家と「商人」」という論文として掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画していた研究内容の考察は、史料の収集や論文の執筆など、おおむね順調に進展している。ただし、調べれば調べるほど疑問点が浮かび、すべてを理想通りに明らかにすることができない面もある。 また、計画以外の研究も同時進行しているため、思うようにすべての研究の成果が出せず、本来の研究計画の論文よりも先に、関連する他の研究が論文として掲載されてしまった。しかし、計画している論文の執筆もかなり進んでいるので、できる限り早く著書の一部に含むかたちで活字化したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、兵庫県・愛媛県・岡山県において、寺院や王家の所領の故地を調査し、王権のミヤケに遡れる可能性を探っていく計画である。 まず、文献史料からそれらの所領の所在地やその特徴などを追究する。そのうえで、実際に所領の故地に赴いて、地名や地形の調査をし、河川や港湾との位置関係から水上交通を考察するとともに、古代道路の位置から陸上交通との関係性も検討する。 最終的に、王権が開発した交易拠点がその後も王家に継承されたり、寺院に施入されたりして、継続していった可能性を探る予定である。もし、奈良時代や平安時代に寺院や王家の所領であった場所が、それ以前にヤマト王権によって交易拠点として開発された場所であれば、王権を支えた経済的基盤がいかにして設けられ、どのように展開していったのか明らかにできる。また、律令国家の経済を考えるうえでも、それらの交易拠点をどのように取り入れて発展したのか考察することが有用である。 なお、これらの研究と並行して、平城京やその周辺の市や店舗についての研究も行う予定である。この研究は各地の交易拠点の研究と無関係のものではなく、律令国家の交易拠点や経済について明らかにするうえで必須のものといえる。そのため、まずは研究計画に書いた内容の検討を行うが、それとともに京の経済についても研究を続けていきたい。
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Causes of Carryover |
今年度は、これまでも行ってきた奈良県での調査や学会参加を中心とした支出であったため、計画していたよりも順調に調査を進めることができ、余剰分が生じた。また、次年度以降の調査には、当初計画したよりも多くの支出が生じる可能性が出てきたので、今年度の余剰分を次年度の調査にあてることとした。 なお、次年度は兵庫県での新たな調査に入るため、その旅費や関連書籍代にこれまでよりも多くの支出が予想される。次年度使用額と合わせて、計画的に支出したいと考えている。
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