2019 Fiscal Year Research-status Report
近世ヨーロッパの貴族世界と政治・外交ネットワークに関する基礎研究
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17K13555
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
帆北 智子 東北大学, 国際文化研究科, GSICSフェロー (90713214)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 貴族 / 政治・外交ネットワーク / ロレーヌ公国 / 境域国家 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,18 世紀ロレーヌ公国の貴族層が公国の外部にその社会的,政治的紐帯を広げていきながら,ロレーヌ固有の自己意識を形成,ないしは強化していったという,一見すると矛盾した歴史現象について,ロレーヌ貴族社会に内在しただろう集団的アイデンティティ観から理解することを目的としている。 本年度は,ロレーヌ騎士団に属する貴族家門のうち,分析対象の軸として選定した家門の権力基盤に迫ることを目標とした。そこでまず,これらの家門の官職獲得状況について,ロレーヌ貴族の上位権力層との関係から検討しようと努めた。17世紀前半までの各家門は,公国のAssisesを構成する家門であること,すなわち,ロレーヌ公との関係が重視され,これとの関係に限定された官職を獲得している傾向がみられる。しかし,17世紀中ごろからは,神聖ローマ帝権(ハプスブルク家),あるいはフランス王権の下で官職を獲得している家門が増加しており,官職獲得にみる権力基盤の形成傾向に,領域的な広がりを確認することができた。この傾向の変化は,ロレーヌ公国とロレーヌ公をとりまく,国内および国際情勢の変化と軌を一にしていることから,各家門もそれらの影響を受けたことを推測することができる。しかし,そういった外的変化に即応したかのようにみえる官職の獲得が,なぜこれらの貴族家門に可能であったかについては,史料の不足から分析することができなかった。なお,以上の成果の一部は論文にして発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本課題の助成が開始された当初より,私事のため日本に滞在している必要があったこと,また,メインの史料収集先となる文書館が建物のトラブルで閉館していたことから,未だ基本的な史料すら手にできていない状況にある。本年度になって,ヨーロッパへの調査旅行がようやく叶ったのだが,メインの文書館は依然として閉館しており,周辺の文書館やパリの国立文書館をたずねたものの,充分に史料収集できたとは到底いえない結果であった。以上の理由により,研究を進めることが非常に難しい状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
メインの史料収集先となる文書館は,今年の5~6月に開館予定とのことだったが,コロナ禍によって閉館したままであり,この先,いつ開館するかの見通しも立っていない。コロナ禍においては,その他の施設も利用できない可能性が大きく,今年度の調査旅行は難しいことが予想される。したがってまず,研究計画の大幅な見直しが必要となるだろう。たとえ助成期間を1年延長するにしろ,例えば貴族家門の所領に関する調査には多くの時間を要すると考えられることから,所領分析については断念する必要があるかもしれない。また,別課題で収集した手持ちの史料を再整理したり再分析したりして,何らかの形で本課題に用いることを積極的に検討する必要もあるだろう。
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Causes of Carryover |
研究計画4年間のうち,年1回ずつの計3回は調査旅行を目的とした海外渡航を実施する予定をたて,その費用を計上していた。しかし,「現在までの進捗状況」でも述べたが,諸々の理由により未だ1度しか渡航できていない。また,助成金の主たる用途のほとんどが調査旅行費であるため,初年度から繰り越されてきた助成金がそのまま残されている状況にある。本年度もまた,コロナ禍によって渡航が叶うかが不透明であるが,可能であれば,長期あるいは複数回の渡航を実施して,史料収集をおこないたいと考えている。
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