2020 Fiscal Year Research-status Report
近世ヨーロッパの貴族世界と政治・外交ネットワークに関する基礎研究
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17K13555
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Research Institution | Soka University |
Principal Investigator |
帆北 智子 創価大学, 文学部, 准教授 (90713214)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ロレーヌ公国 / ロレーヌ貴族 / 大騎士 / 政治・外交ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は,ロレーヌ貴族層のなかでも大騎士という公国の上位貴族層について検討した。本研究はこれまで,ロレーヌ貴族を中心とする18世紀の「政治・外交ネットワーク」が,旧大騎士出身者によって主導的に構築されていったのではないかという予測のもと作業をすすめてきた。じじつ大騎士については,彼らが中世より運営してきたロレーヌ騎士法廷が停止された17世紀なかごろを境に没落していく社会集団と一般に理解されている一方で,個別の大騎士家門に目をむけると,必ずしも彼らが"没落"したとは判断できない状況や側面を多く指摘しうる。そこで今年度は,騎士法廷に改めて着目し,中近世の公国における上位貴族層の政治的、社会的な位置づけを明らかにすることで,18世紀における旧大騎士家門の動向や政治的役割の変容などを見通すための考察材料をえようと試みた。 大騎士は,騎士法廷(さらには三部会)をつうじて,公国の司法および立法権をほぼ独占し,強い閉鎖性をもつ自己完結的で同質的な貴族集団を形成していった。くわえて,騎士法廷は,大騎士による権力実践の場であっただけでなく,彼らが公国の政治的,社会的ヒエラルキーの頂点にいることを的確に表象する場でもあった。本研究のこれまでの成果を踏まえると,大騎士が騎士法廷を通じて培ってきたこのような政治的,社会的位置づけが,騎士法廷の停止によって即座に解消され,大騎士が没落に向かったとは考えづらい。騎士法廷はむしろ,18世紀において「政治・外交ネットワーク」構築を可能とした集団凝集性の高い貴族集団の母体を創出し,他方で騎士法廷の停止は,結果としてネットワークの構築に向かわせることになるような"戦略"の変更を大騎士家門に迫ったと考えうるが,以上に関しては今後,史料的な裏付けによる補完が必要である。なお,ここでの研究成果は既に論文として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
助成が開始された当初より,私事のため日本に滞在している必要があったこと,また,メインの史料収集先となるフランスの文書館が建物のトラブルで閉館していたこと,さらに助成期間の後半はコロナ禍によって海外への渡航が叶わなかったこと等の諸事情によって,基本的な史料すらほとんど手にできていない状況にある。これまでの研究成果は,19世紀に刊行された書籍を一次史料に位置づけた考察や刊行史料の利用によってだしてきた。しかし,これらの成果は,本研究が対象とする18世紀のロレーヌ貴族層やヨーロッパ貴族社会に関する状況整理,あるいは背景理解に資するような準備的な考察の域をほとんどでないものと理解している。以上のような理由により,進捗は遅れていると言わざるをえない。
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Strategy for Future Research Activity |
進捗状況を鑑みるに,研究計画と収集史料の大幅な見直しを行う必要がある。コロナ禍にあっては,今後も史料調査のための海外渡航が困難であり,一次史料の入手もほとんど望めないと考えられることから,現在進行形で進めていることのひとつが,さまざまな刊行史料の入手である。また,助成期間の延長手続はすでに行っているが,それでもなお,貴族家門の所領に関する調査には多くの一次史料を要することから,所領分析については断念しなくてはならないだろう。研究計画を作成した当初の目的が到達できる見込みは限りなく低いが,可能な限り,代替となりうる史料や手持ちの史料等を用いて研究を進めていくしかない状況にある。
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Causes of Carryover |
研究計画5年間(延長1年込み)のうち,年1回ずつの計3回は調査旅行を目的とした海外渡航を実施する予定をたて,その費用を計上していたものの,結果として未だ1度しか渡航できていない。助成金の用途のほとんどが調査旅行費であるため,初年度から繰り越されてきた助成金がそのまま残されている状況にある。2021年度の渡航もかなり困難だとは思われるが,可能であれば,長期あるいは複数回の渡航を実施して史料収集をおこないたいと考えている。渡航が叶わないと判断した場合は,刊行史料や古書,研究書などの書籍購入費に積極的にあてていく予定である。
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