2017 Fiscal Year Research-status Report
Church Law and Historiography in Late Antiquity
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17K13556
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 創 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (50647906)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 古代ローマ / キリスト教 / 教会法 / 写本 / 小アジア / コンスタンティノープル / 修道院 / カノン |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は研究初年度ということもあり、二年次以降の準備作業を行った。概要としては(1)古代末期教会史、教会法、小アジアの地理に関連する研究文献・事典類を入手し、研究動向や基本情報の整理を実施、(2)主たる研究対象となるCodex Veronensis LXの構造を整理するとともに、写本に収録されている教会法・教会史のラテン語史料を、部分的に刊本として公刊されている情報を基にして翻訳・分析した。具体的には、ローマ帝政後期におけるキリスト教教会会議の開催状況の歴史的経緯を調査したほか、4-6世紀にかけての教会規定の内容が地中海世界全体でどのような潮流を形成しているかを調べた。そして、Codex Veronensis LXに収録されている一連の教会規定と教会史情報の日本語への仮翻訳を作成した。加えて、中世世界における写本伝承の全般的傾向に関しても知見を深めた。一年目ということもあり、一連の成果を研究論文などの形にまとめる時間はなかったものの、朝日カルチャーセンターでの連続講演では、ユスティニアヌス帝の治世という教会史観の形成に大きな影響を及ぼした時期に関して、獲得した知見を一般向けに解説する機会を持つことができた。夏期には、写本伝承に深く関わっている北イタリアのボッビオを訪れたほか、研究対象とする写本の一部が伝わっているローマ、そして、日本では入手できない二次文献を閲覧するためウィーンを訪れるなどの調査旅行を行った。さらにはOxford大学のNeil McLynn氏との面談の機会を設け、キリスト教公会議の史的伝承にまつわる研究動向などについて、研究上の助言を受けることもできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究対象となるCodex Veronensis LXに収録されたラテン語テキストに関わる主要な刊本や研究文献を今年度中に入手することができ、その内容全体についても仮翻訳をすることができたことから、初年度の主要な目的は十分達せられたと考えている。また研究成果の一部は、古代史の会12月例会で「第一次コンスタンティノポリス公会議とアンティオキア:ローマ教会との関係をめぐって」という題目で20数名の聴衆の前で発表し、有益な研究上の助言を得ることもできた。初年度の研究計画として、電子データとしての史料情報の整理も予定していたが、これについても実際の公開までには至ってはいないものの、情報の整理自体はかなりの程度進めることができ、早期の公開ができる準備を整えられた
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通り、主としてアリウス派論争など教会史上の重要論題をめぐる4-6世紀の歴史史料中の言説を引き続き調査し、ローマ帝政後期の教会史叙述の伝統とそれに伴う教会規定の伝承過程を分析する予定である。『教会史』と呼ばれるジャンルがどのような発展を遂げ、古典的な歴史叙述の伝統からいかなる影響を受けたのかを、東北大学西洋史研究会によって今秋に開催されるシンポジウムで報告する予定である。また、写本に収録されているラテン語テキストについては、既に刊本の著作権が切れているものなどの確認が取れたため、随時電子データとして公開できる状態に移行することを目指す。準備状態に応じては、予定していたようにローマの文書館を訪問し、写本断片の一部についても、実見する機会をもうけたい。
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