2019 Fiscal Year Research-status Report
Church Law and Historiography in Late Antiquity
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17K13556
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 創 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (50647906)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 教会史 / 古代ローマ / 歴史叙述 / 教会法 / キリスト教 / 古代末期 / 都市 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、(1)研究対象となる写本二点の現地調査、(2)研究成果の紙媒体での発表、(3)一部成果の海外講演などでの発表を行った。(1)のうち、一点はヴェローナのBiblioteca Capitolare所蔵のVeronensis LX、もう一点はローマBiblioteca Casanatenseの写本378であり、夏期のイタリア渡航で実見することができた。今回の調査の主目的は、インクの色の使い分けや、ページのレイアウトを確認し、書写に際しての教会規定の編集方針を見極めるためのものであった。現地見分の結果、事前の疑問点が解けた部分もあったが、新しく生じた不明点もあり、この点については最終年度の検討事項としたい。(2)については、昨年度東北大学西洋史研究会で行った発表を、論文「教会史の系譜――ローマ帝政後期における歴史叙述の伝統と変容」として活字化した。また、研究対象時期に関わる通時的な帝国史と歴史叙述に関する単著原稿を執筆した。これは順調にいけば、2020年度に出版される予定である。ほかにも、2020年度4月に出版された、金澤周作(監修)『論点・西洋史学』(ミネルヴァ書房)や東京大学教養学部歴史学部会『東大連続講義 歴史学の思考法』(岩波書店)に共著原稿を寄稿した。(3)については、国内講演会のほか、北京大学での招待講演で成果の一部を発表し、451年に開催されたカルケドン教会会議を題材として、当時の地中海都市の置かれた社会環境や、教会規定・教会会議議事録の編集過程についての考察を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度実施できなかった写本調査に加えて、本年度に兼ねてから予定していたCodex Veronensis LXの実見も行えたことから、本研究計画の重要な部分は十分達せられた。その一方で、実見したことを通じて、写本の構成などについて不明な点も新たに出てきたことから、さらに考察を深める必要が出てきた。情報の整理自体は進められているものの、整理の方法について再考が必要であり、この点については2020年度に研究を進めることで解決したいと考えている。その一方で古代末期の歴史叙述の伝統や教会規定の伝承についての情報収集は順調に進められており、基礎的な文献・データは整えられた。出版物の原稿も本年度中に多数書き上げることができ、その成果は2020年度に公開される予定であることから、おおむね順調と評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
教会史上の重要論題をめぐる4-6世紀の歴史史料中の言説については、本年度までの研究成果のほか、上記「概要」で言及した、2020年度に出版される書物で発表する。ほかにも、教会の正統・異端を決める論戦において、どのような形で基準となるテキストを定め、どのような文書集を利用したのかについてまとめた論考を英語媒体で公表する予定である。その一方で、Codex Veronensis LXの形成をめぐる7-8世紀の歴史叙述の伝統や教会規定の伝承については、写本の実見の結果、編制原理を再考する余地がでてきた。本年度はこれまでに入手した文献を利用して、教会規定集の形成過程についての理解を深め、研究成果にまとめる。最後にその成果をもとに、データの編集方法・整理方法についても参照しやすい形式を構築したい。
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Causes of Carryover |
研究第二年次に行えなかったイタリアでの写本調査を、当初から予定していた第三年次の写本調査とあわせて今年度に一度に実施したことが、当初計画よりも額面に違いが出た最大の要因である。コロナウイルスの問題が発生したことにより、第四年次に再調査のためにイタリアを再訪することは難しいと考えられるため、写本分析にあたって必要な研究文献・資料類の収集、データ整理のための人件費に残余の研究費を使用する予定である。
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