2017 Fiscal Year Research-status Report
A Study on the Formation Processes of Neolithic Hunter-gatherer Societies in the Northern Part of the Japanese Archipelago
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17K13563
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
夏木 大吾 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (60756485)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 更新世/完新世移行期 / 日本列島北部 / 縄文時代草創期文化 / 旧石器時代終末期文化 / 縄文時代早期文化 / 文化的影響 / 文化形成 / 生態適応 |
Outline of Annual Research Achievements |
北海道における縄文時代草創期の生業戦略と居住形態を明らかにするために、遠軽町タチカルシュナイ遺跡M-I地点の発掘調査と分析を行った。発掘の結果、縄文時代的な石器群が検出され、それらは炭素年代測定から縄文時代草創期であることが確実となった。また、晩氷期前半の温暖期に本州から縄文時代草創期文化が北海道の北東部まで北上したことがわかった。 列島北部における生業戦略と居住形態の時間的変化と地域差を検討するために、更新世末~完新世初頭の主要な遺跡を抽出して、道具組成と遺構、放射性炭素年代測定のデータベースを作成した。北海道の道北・道東・道央の事例についてはほぼ集成を終え、年代値に基づく基本的な変化を整理した。 本州―北海道間における文化的影響について明らかにするために、北海道と青森県の遺跡出土資料や採集資料を実見し、分析した。実見により得られた知見とデータベースの成果を合わせ、①北海道の広範囲に縄文時代草創期文化が分布し、②晩氷期前半において縄文時代草創期文化と旧石器時代終末期文化が併存したことがわかってきた。また、北海道の完新世初頭11-10ka頃の土器と石器は、同時期の青森の例と類似しながらも、北海道では旧石器時代終末期の石器製作伝統が一部存続することがわかった。この証拠から、北海道の独特な縄文時代早期文化は、本州からの縄文文化と北海道在地の旧石器時代終末期文化が融合したものである可能性が高まってきた。 更新世・完新世移行期の文化形成について広域的な視点から列島北部を評価するために、ロシアのハバロフスク地方郷土博物館にて、ノヴォトロイツコエ10遺跡、オシノヴァヤレーチカ10・12遺跡、ゴンチャルカ1遺跡の資料を実見した。北海道とは直接的な文化的関係性は見いだせなかったが、類似した生態適応の方向性が捉えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
タチカルシュナイ遺跡M-I地点の調査で得られた遺物は、型式学のみを根拠に縄文時代草創期と判断していたが、そもそも北海道における類例に乏しかったため疑義が生じる余地があった。今年度の分析で、妥当な年代が得られたことにより、縄文時代草創期文化であることが確実となった。この成果により、北海道においては晩氷期前半に縄文時代草創期文化と旧石器時代終末期文化が同時存在することが明らかになり、異系統文化の影響関係という視点から文化形成を議論できるようになった。 完新世初頭における北海道の先史文化は「縄文時代早期文化」とされながらも、本州島と異なる物質文化の特徴が顕著であり、その文化形成については謎が多かった。今回の調査で当該期に旧石器時代終末期文化の伝統が残存する証拠、そして11-10ka頃に本州の縄文文化が北上した証拠を得たことにより、完新世初頭の独特な文化が生まれた背景の解明に大きく近づいた。
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Strategy for Future Research Activity |
日本列島北部の新石器型狩猟採集社会の形成過程について、①生業戦略と居住形態の研究、②文化的影響関係の実態解明というテーマから研究を進めていく。 ①については、晩氷期における北海道の縄文時代草創期文化の特徴を明らかにするために、引き続きタチカルシュナイ遺跡M-I地点の発掘調査を行い、H30年度で調査を終了させ、H31年度に調査成果をまとめる。また、北海道の完新世初頭の遺跡における、道具組成や遺構、年代を整理し、完新世人類の適応形態を検討する。それらを踏まえ、更新世から完新世にかけての適応的な社会と文化の変化を明らかにしていく。 ②については、東北北部の更新世/完新世の文化変遷を整理し、北海道との文化的影響関係が強い時期とその内容について精査する。そのために東北北部の考古学的データを文献から収集し、特に重要な遺跡(青森県赤平1遺跡、同鬼川辺1遺跡、同平野遺跡、同潟野遺跡、岩手県上台I遺跡、同大日向II遺跡、同室小路15遺跡)については資料調査を行い、土器と石器の型式学的分析を実施する。また、北方からの文化的影響を検討し、より広域的な視点から文化形成を比較するために、ロシアのアムール流域とサハリンの遺跡出土資料に対する調査を実施する。これについては、ハバロフスク地方郷土博物館が所有するハルピチャン4遺跡、ヤミフタ遺跡、そしてサハリン国立大学が所有するスラブナヤ4・5遺跡、フンマフタ遺跡の調査を予定している。
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Research Products
(5 results)