2017 Fiscal Year Research-status Report
フェニキア人の「出現」-考古資料から見た初期の交易活動と対外進出
Project/Area Number |
17K13573
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Research Institution | Tokyo National Museum |
Principal Investigator |
小野塚 拓造 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸研究部, 研究員 (90736167)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 鉄器時代 / 地中海 / レヴァント / フェニキア / 土器 / テル・レヘシュ / テル・ゼロール |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)レヘシュ遺跡の出土土器の整理と分析:イスラエルで現地調査を実施し、主に、日本の合同調査隊が2006年から継続的に発掘調査を実施しているレヘシュ遺跡(テル・レヘシュ)の考古学プロジェクトに参画し、同遺跡で発掘された関連土器を検討、必要な資料をデータ化(実測図作成、写真撮影など)した。この調査では、フェニキア出現期に相当する初期鉄器時代層(前11世紀頃)には、フェニキアからの搬入土器がほとんど認められず、その文化的影響を示す土器も限定的であった。一方、前10世紀以降の層位を検討してみると、フェニキアを含む地中海沿岸部からの搬入土器の割合が増していることが明らかになった。これまでの発掘調査の結果、テル・レヘシュは後期青銅器時代から初期鉄器時代にかけては、地域の中核となる居住地であったが、前10世紀以降の居住を示す痕跡は疎らであり、小規模な村落となっていたことが分かっている。一見すると「取るに足らない」村落であったテル・レヘシュに、様々な地域とのつながりを示す土器が流入した背景には、フェニキアを中心とした地中海の海洋交易の活発か、「フェニキア人」の各地への進出が想定される。初年度の成果は今後の研究の糸口となるものである。 (2)ゼロール遺跡の調査資料の整理:ゼロール遺跡(テル・ゼロール)はフェニキアにほど近い、地中海沿岸地域に位置する遺跡で、1964~1966年、1974年に発掘調査が行われている。調査日誌類を含む調査記録と一部の遺物は天理大学で保管されている。テル・ゼロールの調査成果の学術的重要性はこれまでに指摘されてきたが、最終報告書が出版されていないため、その実態は不明のままとなっている。本研究では天理大学文学部の協力を得て、テル・ゼロールの調査記録類を整理し、初期フェニキアの関連する初期鉄器時代の層位と出土遺構、その年代についての大枠を掴むことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は主にテル・レヘシュとテル・ゼロールの出土資料の検討を行い、初期フェニキアの活動を描くための基礎資料を得るとともに、今後の研究の視点を得ることができた。当初、予定していたテル・カシーレの調査成果の再検討なども、発掘報告書や関連論文を収集し、とりかかることができている。研究の初年度としては、順調に課題を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
テル・レヘシュやテル・ゼロールなど、フェニキアの周辺地域の出土資料の検討をさらに進めるとともに、次年度以降は研究計画にあるエジプトやキプロスとの交易を示す資料の把握と調査・研究に重点を置く必要がある。また、調査や研究で得られた成果を国際学会等で発表し、関連分野の研究者たちと研究会を実施することで、研究のさらなる進展を目指す。
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