2018 Fiscal Year Research-status Report
食料生産をめぐる人間・自然物・技術のネットワークに関する地理学的研究
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17K13579
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
伊賀 聖屋 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (70547075)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 食の地理 / 異種混淆 / 行為主体性 / ネットワーク / エビ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,自然物や技術との関わり方が異なる複数の食料生産システムの比較検討を通じて,多様な生産システムの生成メカニズムを体系的に理解することである.本年度は,環境保全型のエビ生産システムの特徴を浮き彫りにするために,従来型の生産システム(粗放型・集約型)との比較作業を重点的に実施した.具体的には,インドネシア・アチェ州における従来型の養殖池において,エビ養殖池の物的環境とその管理様式に関連する資料・情報を収集し,それらを基に従来型のエビ生産システムの構造的特質を把握する作業を行った.併せて,前年度に実施した環境保全型のエビ生産システム(東ジャワ州)の特徴と比較検討することで,それぞれの生産システムが人間・自然・技術のいかななる関わりの中から編み出されているのかを考察した.得られた知見は以下の通りである.1)アチェ州の集約型養殖池では,池水,稚エビなどとの関係に不確実性(=生産性向上の阻害要因)が存在する状況の中,工業的な生産資材(人工飼料や化学薬品)や科学的な管理手法のネットワークへの動員という実践が導き出されていった.2)アチェ州の粗放型・半集約型養殖池では,生産性の向上に向けて自然物や在来知がネットワークへと動員されることはあまりない.同時に,水質などを客観的な指標に基づいて管理する取り組みも一般的ではなく,科学的知識をネットワークへと積極的に取り込んでいるというわけでもない.3)東ジャワ州シドアルジョ県の粗放型・半集約型養殖池では,自然環境との関わりで生じる予期せぬ出来事に対して,池の内外に存在する自然物や伝統的な生産方法を動員することによって対処しようとしていた.同時に,生産者組織における集団的な学習を通じて,低生産性の問題の解消に向けた科学的な知識・技術のネットワークへの動員も図られていた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究は,おおむね順調に進展した.2018年4月と8月,11月,2019年3月にアチェ州のエビ養殖池のオーナー・労働者を対象としたフィールドワークを積み重ねることで,従来型のエビ生産システムの構造的な特質を把握することができた.また,人間と非人間のネットワークに着目する科学技術社会論(STS)やアクターネットワーク論(ANT)のレビューを昨年度に引き続いて実施し,本研究が依拠する分析枠組みの更なる精緻化を図った.
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Strategy for Future Research Activity |
今後も当初の計画通り研究を推進していく予定である.次年度は,2018年度にアチェ州において実施したフィールド調査を継続的に実施するとともに,東ジャワ州における調査も改めて実施する.その際,生産者組織であるクロンポク・タニに対して,エビ生産に関わる知識や技術の獲得・共有をいかに推進しているのかを重点的に調査する.併せて,STSやANTに関連する文献のレビューを継続的に行いたい.
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Causes of Carryover |
2019年度にインドネシア調査におけるカウンターパートであるAgus Nugroho講師を日本へと招聘し,共同でエビ養殖(沖縄県)の調査を行う必要が生じた.そのため,2018年度分の経費を繰り越して,次年度の旅費に充当することにした.
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