2017 Fiscal Year Research-status Report
現代インドの「生物文化多様性」と科学/在来知の接触をめぐる人類学的研究
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17K13586
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中空 萌 大阪大学, 人間科学研究科, 特任研究員 (60790706)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 生物文化多様性 / 科学人類学 / 在来知 / データベース / インド |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、インドにおける「生物=文化多様性」に関するプロジェクトを対象とし、科学と在来の知識はどう異なり、また両者はどのような関係にあるのが望ましいのかを探究するものである。とりわけ、「科学知/在来知」を首尾一貫した知識「体系」ではなく、特定の場で生成する不安定な「実践」と捉えることで、生物多様性をめぐる複数の知識の折衝の場で何が生み出されるのかを明らかにする。 初年度である平成29年度にはまず、フィールドであるウッタラーカンド州の州政府の「人々の生物多様性登録」プロジェクトにおいて1か月間の参与観察を行った。ウッタラーカンド州内の森林研究機関、薬草研究機関の植物分類学者、生態学者、そして薬草治療の専門家「ヴァイディヤ」や多様な人々の折衝のもとで、いかに「貴重な」生物資源と在来知が登録されるのか、その過程において何が含まれ、何が排除されるのかを明らかにしようとした。具体的には、プロジェクトの会議への参加、データ収集及びドキュメンテーションの過程・データベースの技術的細部の設計過程における参与観察を行った。 また調査の成果を文脈化する分析枠組みの構築のために、科学知と在来知に関する新たな文献を網羅的に整理・検討した。とりわけ既存の在来知研究の枠組みを超えて、両者の「翻訳」における知識生成を議論した科学人類学の議論、植物や動物といった人間以外の種と人間の関係に焦点を当てた多種民族誌を参照した。 これらのフィールド・文献調査をもとに、二冊の著書の分担執筆(The World Muptiple (Routledge, 2018)、『文化人類学の思考法』(世界思想社、2018))、2回の国際ワークショップでの発表、2回の国内研究会での発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
8月に行った現地調査において、今後の調査に必要な人脈を得、また具体的な問いを設定することができた。またその成果と文献調査の成果をもとに、2冊の分担執筆、2回の国際ワークショップでの発表、2回の国内研究会での発表を行った。以上のことから、計画はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度には、当初の予定どおりウッタラーカンドにおいて、「人々の生物多様性」で完成したデータベースをもとに「コミュニティ」を「責任ある環境保護主体」とするための多様な施策ー「貴重な」在来知の再教授と特定植物種の栽培ーが取られていることに注目する。こうした新たな知識や技術の介入がローカルな人々の環境知識や集合性をめぐる認識にいかに働きかけるのか、州内山岳部のチャモーリー県及び平野部のデーヘラードゥーン県の特定農村において2か月間の現地調査を行う。 文献研究としては、前年度からレビューを行っている科学知と在来知の接触をめぐる理論研究に加え、より本研究を学際的な文脈に位置づけるために、生物多様性に関する分類学、生態学、政治学、経済学、社会学の文献を読み込み、本研究固有の「フィールドからの批判」の意義を明確化する。 さらには、植物分類学会、生態学会、分類学連合に出席し、学際的ネットワークを構築するとともに、日本文化人類学会他、環境社会学会、Society for Social Studies of Scienceにおいても成果を発表する。
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