2017 Fiscal Year Research-status Report
Memories of War, Conflict and Disaster in Handicrafts and Its Potential for Communicating across Borders: A Focus on Chilean Arpilleras
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17K13588
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
酒井 朋子 東北学院大学, 教養学部, 准教授 (90589748)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 記憶 / 政治暴力 / 戦争 / 災害 / 手工芸 / 展示 / チリ / アイルランド |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の研究計画より、やや進んだ状態である。 2017年度は、戦争や政治暴力、災害の経験に関わる布作品を展示する「記憶風景を縫う-チリのアルピジェラと災禍の表現」展を、国内三箇所で開催した。仙台では東京エレクトロンホール宮城(5-6月)、京都の同志社大学寒梅館(7月)、長崎の長崎県美術館(8-9月)での開催である。三会場合わせてのべ1500名を超える来場者があった。展示作品の解説及び関連コラムを収録した図録も作成・出版した。 この企画にあたっては、大学に所属する研究者のほか、地域のアート事業にて活躍するキュレーターや編集者もコア・メンバーとして企画に関わった。また学生も展覧会スタッフとして企画と運営に関わり、有意義な教育的機会ともなった。とりわけ広報活動や展示ガイドを任せたことで、主体的な学びの意欲が強まり、格段の知的成長を見せた者もいた。展示は人類学において重要な研究成果発表の機会であるが、その企画に関わることが人類学的学びの優れた機会になることを改めて確認した次第である。 11月には戦争や政治暴力、災害の経験に関わる布作品についての国際コロキアム、「Textile Language of Conflict」に参加した。イギリス領北アイルランドのアルスター大学で開かれたものである。これは当該分野で研究を進める若手研究者および美術館・博物館関係者20名弱がヨーロッパ、南米、アジアから参加したもので、3日間にわたり活発な議論が交わされた。研究代表者の酒井は東アジアからの唯一の参加者となり、上記の「記憶風景を縫う」展について、その視点と企画の経緯、成果について報告を行った。このコロキアムについての報告はオンラインで見ることができる(http://cain.ulster.ac.uk/conflicttextiles/search-quilts/fullevent/?id=171)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
理由は主に以下の二点である。 (1)「記憶風景を縫う」展については、当初の予定通り国内三箇所の会場で開催することができ、またそれぞれの会場で概ね予想通りか、それ以上の来場者数をみることができ反響もあった。実行委員会の本部は、第一の会場があり、また研究代表者・酒井が拠点をおく仙台にあったが、京都、長崎でも、同志社大学ならびに長崎大学に所属する研究者に現地実行委員を依頼して多大な協力をいただき、様々な準備作業や連絡についても、スムーズに進めることができた。 (2)当初、展示の経験を報告し、国際的な経験共有と意見交換を行う機会(国際学会でのパネル発表など)を2018年度にもつ予定であったが、2017年11月にこれを行うことができた。イギリス領北アイルランドに拠点をおく研究協力者が、イギリスの経済・社会研究機構(ESRC)の一週間の全国的フェスティバルに合わせて本研究のテーマと密接に関わる国際コロキアムを行うこととなり、そのコロキアム「Textile Language of Conflict」に招待されたのである。予定より早まった研究発表であったが、5月-9月に行った「記憶風景を縫う」展覧会の報告を行う場としては、結果的にはベストのタイミングであったと言える。酒井報告の内容は、コロキアム参加者でもあるウェールズのAberystwyth大学の研究者が管理している研究ブログ(https://stitchedvoices.wordpress.com)にて英文で公開されている("Textiles dealing with everyday memories of war, political violence and disaster: The Stitching Memoryscape exhibition, Japan, 2017")。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度の展示にもとづく内容を、学会でも報告し、また論文として出版することが第一の目標となる。 とくに、11月のコロキアムでは展覧会のキーワードにもなった「記憶風景」という概念の重要性が指摘され、より洗練された形で発表することを期待するコメントが多く寄せられた。ゆえに、G. バシュラール『空間の詩学』、G. ジンメル「風景の哲学」、箭内匡『イメージの人類学』など、イメージ、空間や風景、場所についての哲学・人類学・社会学・美術史における既存研究の整理をさらに進め、アルピジェラという具体的な素材から発するオリジナルな視点をもつ理論を、発表論文では展開したい。英語ではすでに「memoryscape」の概念を(おもに記憶政治の文脈で)用いた研究書が発表されているが(H. Muzaini and B. Yeoh "Contested Memoryscapes"など)、酒井の研究はそれとは異なる視点・関心を持ったものとなる。より生活経験とローカルでミクロな関係性、および「手工芸」という表現のもつ可能性に焦点を当てる予定である。このmemoryscapeという語がすでに英語で用いられていることから、議論整理のためにも、英語での論文出版を目指す。 また、コロキアムの参加者より、フィリピンの元従軍慰安婦によるテキスタイル作品について情報をいただいたため、今後それについて調査を深め、2018年度末までにフィリピンにて現地調査を行い、作品制作の背景を調査したり関係者に聞き取りを行いたい。そのための準備や情報収集を、現在進めているところである。
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