2018 Fiscal Year Research-status Report
持続可能性に対応する計画法理論の研究―多段階行政過程における計画手法を中心に―
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17K13609
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Research Institution | Shizuoka University of Art and Culture |
Principal Investigator |
山本 紗知 静岡文化芸術大学, 文化政策学部, 講師 (40779302)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 行政計画 / 土地利用計画 / 環境保護 / 自然保護 / 送電網整備 / ドイツ行政法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、大規模なインフラ事業を実施するまでの過程で策定される行政計画の役割を、おもにドイツ法を素材として考察することにより、持続可能な発展を目指す現代国家に共通して求められる計画法理論の構築を目指すものである。 平成30年度は、まず7月に、「インフラ事業の立地計画とその展開-ドイツの国土整備計画を素材として-」と題する論文を、大学紀要に公表した。本論文は、これまでの研究の素材(空港・発電所・送電線)を包括しながら、複数の広域的な計画を俯瞰的に考察するものである。 そこで得た知見は、さらに、平成31年3月に大学紀要に公表した「送電網整備法制における自然保護:ドイツ計画法の議論を素材として」と題する論文の基礎となっている。本論文は、平成30年夏のドイツ滞在の成果もふまえ、送電網整備計画に取り込まれる自然保護利益に焦点を当て、送電網整備法制と自然保護法制の関係に目を向けたという点で本研究を進展させたものの、自然保護法制自体の性質を十分に捉えきれずに課題も残った。 その間、わが国の行政法理論に関しても、平成30年5月に開催された研究会での口頭報告をもとに、翌年1月に「建設業法に基づく営業停止処分について執行停止が認められた事例」と題する判例評釈を公表した。 また、平成31年3月末には、本研究がまさに度々素材としているドイツの送電網整備法制を主題とする講演の翻訳(ドイツ語から日本語)をする機会を得た。本研究を支える基礎理論にも関わる議論に触れ、翌年度に執筆する論文に生かすべく検討をしているところで、平成30年度を終えることとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画によれば、前年度の研究成果をふまえて平成30年度は、ドイツで州や連邦レベル、あるいは更に広域的なレベルで策定される土地利用計画をいくつか例に挙げ、それらの共通要素を抽出することを予定していた。対象が州・連邦レベルの計画にとどまるものの、平成30年7月に公表した紀要論文が、まずはこの点に関する考察の重要な取り掛かりとなったと考えている。 その後、さらに考察を深めるにつれて、送電網整備計画に取り込まれる自然保護利益に焦点を当て、送電網整備法制と自然保護法制の関係を整理する必要性を認識した。この点は、平成31年3月に公表した紀要論文で提示を試みたものの、国内法のみならず、EU法の枠組みから強く影響を受けるドイツ自然保護法制を前に、その性質を十分に捉えることができなかったという点で、大きな課題が残った。現代国家に共通して妥当する計画法理論の探求という本研究の目的を達成するために、この点は引き続き考察すべきであると考えている。 以上のような状況をふまえ、本研究はやや遅れているという評価を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のとおり、平成30年度後半に、送電網整備法制と自然保護法制の関係をより丁寧に整理する必要性が明らかとなった。こうした状況から、平成31年2月に期間の延長申請を行い、承認された。 本研究の目的を達成するため、所属学会への参加や大学紀要への論文執筆などをつうじて、平成31年度も継続して上記課題に取り組みたいと考えている。より具体的には、計画法の側から自然保護法制の位置づけを考察するのに先立ち、まずは自然保護法制を中心に据え、EU法の影響下におけるその法的発展の把握に努めたい。 その過程で場合によっては、これまで研究の素材とした(空港・発電所・送電線)以外の個別領域に存在する計画手法にも言及する必要が生じる可能性があるが、今年度内で一定程度まとまった成果を提示することができるよう、可能ならば考察対象の範囲はさしあたり送電網整備の領域に絞ることを予定している。
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Causes of Carryover |
平成30年度の研究を経て、これまで考察の中心としてきた送電網整備法制、とりわけ連邦個別計画と、自然保護法制との接合により丁寧に目を向けることが、本研究の目的達成には重要であると考えるに至った。これについては、3月に公表した論文で扱ったものの、研究計画では想定しなかった観点であり、自然保護法制に強い影響を与えるEU法の理解が十分でなかったこともあって、同論文は準備的考察にとどまったと考える。来年度は、新たな論文執筆に向けて関連する文献をさらに収集し、考察を深めたい。
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