2019 Fiscal Year Research-status Report
「プレスの法理」の更新―デジタル・メディア革命以後の民主政の規範的再生に向けて
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17K13612
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
水谷 瑛嗣郎 関西大学, 社会学部, 准教授 (80783688)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 報道価値 / オンライン・プラットフォーム / 忘れられる権利 / 国民の知る権利 / 憲法 / 報道の自由 / インターネット / フィルターバブル |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、論文「「国民の知る権利」の複線:ビッグデータ・AI時代に表面化する二つの「知る権利」」を刊行することができた。 本稿は、昨年度(2018年度)に情報法制学会にて行った学会報告の内容をベースに、学会における質疑応答などで得たフィードバックを踏まえ、大幅な加筆修正を行ったものになる。まず、本稿では、Google検索結果削除事件と博多駅テレビフィルム提出命令事件という二つの最高裁決定の判示を、それぞれ比較し、最高裁の中にある「国民の知る権利」概念の輪郭を描き出すことを行った。少なくとも最高裁は、「国民の知る権利」という文言を、報道機関を位置付けるために用いる一方で、Googleのようなオンラインプラットフォームの位置づけには、用いていないことが分かる。本稿は、その最高裁の意図を推察するために、報道機関における「報道価値」判断と、Googleなどのオンライン・プラットフォーム事業者が行っているアルゴリズムによる一貫性をもった選別作業の間にある「違い」に着目した。そのうえで、アメリカにおけるNewsworthinessの法理の背景を検討し、「報道価値」には、国民の「知りたい」という欲求を満たす以上の国民が「知るべきこと」を報道機関が自主的・自律的に高い倫理観に基づいて選択(編集)している点が特徴付けられること、そこから「国民の知る権利」には二つの意味合いが見出され、国民の知りたいことを知る権利と、国民として知っておくべきことを知る権利の二つがあり、最高裁が「国民の知る権利」を用いる際にはもっぱら後者の意味合いで用いているのではないかということを描き出した。そのうえで、アルゴリズムにより国民の「知りたい」を満たすプラットフォーム事業者には前者の意味で国民を支援する役割が最高裁から期待されているのではないかとの指摘を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度は、本務校が変わり、生活環境が東京から大阪へと大幅に移り変わったことから、身辺においても多忙となり、研究の進捗が思った以上に進まなかった。また、研究を重ねる中で、従来は視野に入っていなかったオンライン・プラットフォーム事業者の位置づけを同時に検討する必要があることが分かり、この点について検討を進めるため、現在、研究計画を変更し、来年度(2020年度)への研究期間の延長申請を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、フェイクニュースに関する続編の論稿の執筆を進めている他、情報環境における政府の役割を検討する論稿も執筆を検討しているところである。これらの執筆をもって、本研究はいったん完結に至る予定である。
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Causes of Carryover |
2019年度は、本務校が変わったことで、計画通りの支出がかなわず、購入予定であった書籍などが購入できていない状況である。2020年度に、随時、必要な機器と書籍の購入を行っていく予定である。
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Research Products
(1 results)