2017 Fiscal Year Research-status Report
非国際的武力紛争の規範原理再考――その史的検証――
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17K13616
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
川岸 伸 静岡大学, 人文社会科学部, 准教授 (30612379)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 武力紛争法 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、第1にジュネーヴ諸条約共通第3条の成立過程の実証研究を、第2に冷戦期と1990年代の非国際的武力紛争への外国干渉の論点探求を軸に据え、非国際的武力紛争を規律する武力紛争法の歴史的展開を跡付けた。 両者とも、如何にして非国際的武力紛争に国際的武力紛争の充実した規則を適用するかという問題意識を共有するという点において、共通の側面を有している。しかし、基本的に、前者が、非国際的武力紛争に国際的武力紛争の規則を移植する手法(「規則移植論」)の系譜に立つのに対し、後者は、本来は非国際的武力紛争である政府対叛徒の紛争それ自体を国際的武力紛争として分類する手法(「概念拡大論」)の系譜に立つという点において、両者は違いを持っている。 まず、前者の検討からは、国際的武力紛争の規則のうち、非国際的武力紛争に適合的なもの(傷病者・海上傷病者)と非国際的武力紛争に非適合的なもの(捕虜・文民)という2つのカテゴリーがあることが明らかとなった。 次に、後者の検討からは、政府対叛徒の紛争それ自体を国際的武力紛争として分類する概念拡大に問題があること、これに伴って同紛争に国際的武力紛争のすべての規則を適用することに限界があることが明らかとなった。 これらの2つの分析結果は、1990年代中葉以降の武力紛争法のいわゆる「人道化」言説を考察するにあたって、重要な指標を提供するものと思われる。この分析結果を踏まえ、次年度以降、ジュネーヴ諸条約追加議定書の成立過程の実証研究、さらに1990年代中葉以降から本格化する裁判実践(ICTY)を中心とする「人道化」言説の批判的考察に取り組むことが次の課題であるものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ジュネーヴ諸条約共通第3条の成立過程の実証研究に対して、一区切り付けることができたことに加え、当初想定していなかった争点(非国際的武力紛争への外国干渉の論点探求)が本研究課題のテーマと密接に関連するものであったことが後に判明し、本争点に対しても、一定の解答を与えることができた。ただし、本争点に関しては、ICTYの判例が相当に複雑であり、この点に関して包括的な研究を実施する必要性を同時に感じている。
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Strategy for Future Research Activity |
第1に、ジュネーヴ諸条約追加議定書の成立過程の実証研究を遂行する。この検討からは、非国際的武力紛争への敵対行為規則の導入がどのような理由によって否定されたかという論点に一定の手がかりを得ることが期待できる。 第2に、1990年代中葉以降の裁判実践を中心とする「人道化」言説の批判的考察を行う。そもそも、ICTYはどのような正当化根拠に基づいているのか、その正当化根拠に果たして妥当性はあるのかということが検討の焦点となる。
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Causes of Carryover |
関係図書(武力紛争法、国際法全般)の購入、海外における資料収集・資料調査、学会・研究会・ワークショップへの参加(国内および国外)に関する費用を翌年度に使用することとしたためである。
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