2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K13624
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
神吉 知郁子 立教大学, 法学部, 准教授 (60608561)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 最低賃金 / 産業別最低賃金 / 労使自治 / 格差 / 同一労働同一賃金 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、産業別最低賃金を素材とし、その再構築を足がかりとして労使自治機構の再構築を試みることである。初年度はまず、基礎的な法的検討を行うことによって前提条件を整理し、制度論としての妥当性を高めることを重視した。産業別最低賃金のあり方の見直しは、労使自治の保障という法的意義だけでなく、非正規労働者の待遇改善、同一労働同一賃金の実現にむけた均衡・均等待遇の条件整備とも位置づけられるところ、これらのテーマに関わる最新の法的議論をまとめることができた。 とくに、産業別最低賃金の歴史と機能に関する考察をふまえて、連合大阪主催の「特定(産業別)最低賃金制度のあり方研究会」において具体的提言をし、現場の労使当事者と意見交換ができたことが重要である。この成果は,2017年10月に同研究会報告書としてまとめられ、第5回研究会資料として提言内容が掲げられたのみならず、報告本体のなかにも産業別最低賃金の複数設定などの具体的制度提案として反映されている。さらに,2017年6月には日本弁護士会主催のシンポジウム「最低賃金引上げには何が必要か-法制度と運用面の課題を探る-」にパネリストとして登壇し、日本の最低賃金制度の仕組みと課題などを報告するとともにパネルディスカッションをおこなった。その内容は、同年10月に労働法律旬報1898号において公刊されている。また、現場との意見交換との視点では、製造業の産別労働組合であるJAMの大手労組会議の研修会で「正規・非正規の格差解決に向けた問題点と課題-組合の役割」と題して講演をおこない、労働組合の担当者と積極的に意見交換することができた。この内容は、2017年に同機関紙「月刊JAM」4・5・6月号に講演録として収録されている。その他、正規・非正規格差とその救済については日本労働研究雑誌に論考を発表し、学術的理論化を進めることができたことも実績である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は研究の基礎を固めるのに必要な基本的文献やPC環境などを整えることができ、かつ現場の労使との意見交換を活発に行うことができたため、予定されていた計画に照らしておおむね順調に進展したといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目は、初年度の実績をふまえて、法制度上の課題を明らかにし、イギリス法を対象とする比較法的検討をすすめる予定である。とくに、2016年労働組合法改正という集団的労使関係法に大きな変化のあったイギリスの現状について、現地の研究者への聞き取りをしたいと考えている。その際には、制度の変遷や問題意識だけではなく、新たな労働組合法の施行過程での実務上のインパクトや、新たに生じてきた法的問題、そしてそれらの問題に対してどのような対処や解決方法が提示されているのかについて調査し、日本の取組への具体的示唆を得たい。
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Causes of Carryover |
海外から文献を取り寄せる場合の為替の変動可能性などを考慮し、若干抑制的に物品費を計上してきたが、購入予定であった図書の発行が遅れたこともあって若干の余剰が生じた。今後、物品費として使用する予定である。
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