2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K13624
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
神吉 知郁子 立教大学, 法学部, 准教授 (60608561)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 最低賃金 / 産業別最低賃金 / 労使自治 / 格差 / 同一労働同一賃金 |
Outline of Annual Research Achievements |
産業別最低賃金の研究を足がかりとして労使自治機構の再構築を試みるという本研究の目的に照らすと,2年目にあたる本年度は,初年度に行った基礎的な法的検討をさらに発展させることができた。比較法の素材として,当初はイギリス法の改正状況を調査する予定で,イギリスの労働関係訴訟手続を素材に論考をまとめた。しかし,文献調査してみると,Brexitの影響で当地の法的な進展は膠着気味であったため現地調査の方針は変更することにし,イギリス連邦でもあるカナダのUniversity of British Columbiaにおけるセミナーに参加して,数カ国の海外研究者と意見交換することによって貴重な知見を得ることができた。また,本年度は,働き方改革関連法および関係省令等が成立し,かつ関係する論点について最高裁判決が下されたという点で,日本における賃金規制の大きな転換として注目される出来事が相次いだ。これらの動きは,賃金規制を政府主導で行うか,それとも労使のイニシアティブで実現するかという賃金規制に対する根源的な在り方について問題提起するものともいえ,産業別最低賃金の研究とは表裏一体の重要性を有している。そこで,いわゆる「同一労働同一賃金」を素材として賃金規制について論考を著した。そのなかでは,上記現地調査で知ることとなった海外の研究者の問題意識に答えるため,英語での論考も発表した。その他,上記最高裁の判決に対する評釈も含め,研究テーマについての考察を深めて公表することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に整えた基本的文献やPC環境を基礎として,海外調査も実施することができ,その際に得られた知見を論考にまとめて公表することができた。同一労働同一賃金について研究テーマを展開するなかで,賃金規制に関する実務上の問題点も整理することができ,最終年度の総括に向けてほぼ計画通り順調に進展したといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は,これまでの実績をふまえて比較法研究を発展させるだけでなく,社会的背景と問題意識,そして解決策の組み合わせを理論的に整理して,現在の日本が直面している課題について具体的な提言をまとめたい。単一論点に対して賛成か反対かという単純な意思表示の集合ではなく,望ましい政策を労使で集団的に利害調整する仕組みの構築を具体的制度設計として落とし込んでいく作業を行う計画である。その際には,理論的な視点のみならず,実際の運用における問題点を把握したうえで,実務にも有用となる,日本の立法政策にかかる提言を公表することを計画している。
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Causes of Carryover |
海外調査や,海外に発注する文献費用について,為替変動可能性を考慮していたが,想定よりも変動幅が小さく収まったため若干の余剰が生じた。同余剰金を含めた助成金は,最終年度における研究の総括を円滑に進めるため,最新文献の渉猟・分析および公刊にかかる物品費を中心として,研究報告や意見交換を行うための人件費や移動費用等としても使用する予定である。
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