2020 Fiscal Year Research-status Report
「義務違反の認識」の刑法的位置づけ―事実の錯誤と違法性の錯誤の区別に関する考察―
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17K13627
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Research Institution | Otaru University of Commerce |
Principal Investigator |
菅沼 真也子 小樽商科大学, 商学部, 准教授 (80779695)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 故意 / 錯誤 / 意味の認識 / 詐欺 / 特殊詐欺 / 受け子 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年7月に中央大学刑事判例研究会(オンライン上で開催)にて、判例研究として「いわゆる東名高速あおり運転事件控訴審判決 (東京高裁令和1年12月6日判決裁判所ウェブサイト掲載)」について研究報告を行ない、右報告の際に受けた指導・指摘を参考にして、法学新報127巻9・10号に右判例研究を寄稿し、2021年3月に刊行された。 本判例研究では、事故当時の危険運転致死傷罪の実行行為に自動車の停止行為は含まれないこと、危険運転行為と被害者らの死傷との間の因果関係か肯定できることを明らかにした。本事案では故意は争点となっていないが、故意は実行行為時に必要なものであり、実行行為性をどの時点で認めるかによって故意の内容も左右されるところ、これは各犯罪の構成要件およびその制定の経緯に照らして確定されなければならないことを明らかにした点で、本研究には意義がある。 2018年~2019年にかけて、特殊詐欺の受け子における詐欺の故意の認定に関して3件の最高裁判例が出され、2019年度には、そのうち2件の判例について論稿を発表した。2020年度はそれに引き続いて残りの1件の判例に検討を加え、商学討究71巻2・3号に「判例研究 詐欺の被害者が送付した荷物を依頼を受けて送付先のマンションに設置された宅配ボックスから受け取るなどした者に詐欺罪の故意及び共謀があるとされた事例(最高裁令和元年9月27日判決刑集73巻4号47頁)」を寄稿し、2020年12月に刊行された。 本稿では、特殊詐欺の受け子の故意として、「特殊詐欺かもしれない」との認識が推認される場合と、詐欺の構成要件である「被害者が錯誤に陥っているかもしれない」との認識が推認される場合がありうるものの、いずれの認識でも詐欺罪における「意味の認識」として妥当であることを明らかにした点で重要な意義を有する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度は、新型コロナウイルスへの感染防止対策に伴う講義形式の変更により、オンラインでの講義に対応した形式での講義準備に要する時間が大幅に増加し、また保育園の休園・時間短縮保育により家庭での保育時間が増加したため、研究に十分な時間を割くことができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
進捗状況の遅れの原因は2020年度特有の事情であり、2021年度においては、2020年度ほどは研究時間への影響は及ぼさないものと考えられる。そのため、今後の感染者の増加状況に左右されるところではあるものの、現状では、2021年度には2020年度以前と同程度の研究活動を行うことができると考えている。 なお、本課題の採用当時はドイツへの研究調査を予定していたが、現在の状況では今年度中の海外渡航の実現は現実的ではないので、国内、かつ基本的には北海道内で研究活動を行うこととしたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、2020年度の前半では学会および研究会が中止され、後半には研究会がオンライン上で開催されたため、旅費の支出が生じなかった。また、オンライン講義準備や家庭での保育時間が増加したことにより、研究時間が減少し、それにより予定通りに研究を進めることができなかったので、研究資料としての書籍等の購入も当初の予定より少なかった。 本年度は昨年度よりは研究時間を確保できると予測され、またドイツへの調査旅行の代替として外国文献の取り寄せが必要となると考えられる一方、現状では国内の移動も制限すべき状況が当分続くことが予測されるので、昨年度未執行の予算のうち、旅費相当分を文献・データベース・電子ジャーナルの購入費用に転用して執行することを計画している。
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