2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17K13628
|
Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
サイ ユンチ 信州大学, 学術研究院社会科学系, 助教 (10794430)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 不作為 / 作為義務 / 告知義務 / 詐欺罪 / 欺罔行為 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度は、各犯罪構成要件の保護法益の特質から出発し、法益との関連において作為義務者を特定するための指針を具体化する作業が必要である、という結論に至った。 2018年度は、「詐欺罪」における「告知義務」をめぐって、実務には、実質的には「作為」による詐欺として評価できる事案を、「不作為」による詐欺の事案として扱う問題点があることを指摘した。 2019年度は、2018年度の研究成果を踏まえて、「告知義務」の判断が必要である「不作為」に よる詐欺の範囲(作為と不作為の区別基準)を明確化する作業を行った。その結果、「ある1つの時点の行為を作為と評価できるか」という判断の内容を以下のように解される。まずは、①「判断対象たる行為の時点における行為者の存在を仮定的に消去することによって、行為者による危険状況の悪化(危険の創出ないし危険消滅の阻止)を肯定できるか」を判断する必要がある。 次に、②「当該危険状況の悪化と、(判断対象たる行為の時点の)行為者によるエネルギー投入の両者間の経験的合法則性を肯定できるか」の判断が行われる。ある1つの時点の行為を「作為」と評価できるかは、前述の2段階の評価によって確定されるのであり、そして、前述の①②に対して、両方とも肯定的な結論が導き出される場合に限って、当該行為の「作為」性を肯定できる。 最終年度の研究成果として、以下の2つを挙げることができる。すなわち、①被害者の確認措置の体系的位置づけを明確化したのとともに、「挙動による欺罔行為」の判断構造を具体化した。②告知しなかった内容が「重要な事項」であることのみを根拠に、「告知義務」を肯定する一部の裁判例の論理の成因を浮き彫りにした。告知義務論・不作為犯論の理論的土台を整えた点に、最終年度の研究の成果を見出すことができよう。
|