2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K13638
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
西貝 吉晃 日本大学, 法学部, 講師 (50707776)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | サイバー犯罪 / サイバーセキュリティ / 無権限アクセス / CIA / IoT / 情報 / データ / 情報セキュリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,コンピュータ・データの機密性の保護に関する刑事立法論(無権限アクセス罪の研究)の連載論文を法学協会雑誌にまとめて公刊した。これについては日本刑法学会第96回大会で報告し,積極的な評価を頂けたと考える。同論文については,デジタルフォレンジック研究会から若手研究者最優秀賞も頂いた。 技術発展や国際社会の動向等をなお注視していく必要があるものの,サイバー犯罪の研究のうちの中心的部分についての研究成果を公刊することができ,情報セキュリティ学と法律学との対話等も意識した議論を展開することができた。この成果は,一面においてはコンピュータ・データの機密性侵害罪の提案という短期的な立法論を含むが,長期的にみると,CIAの定義,情報やデータの定義及び特徴論に根ざした議論を行ったので,我が国のサイバーセキュリティに関する法制についての基礎理論を構築できたのではないか,と考えている。 ところで,情報セキュリティにおいては機密性だけでなく,完全性・可用性の維持も重要も重要になってくる。現時点では少し調査をしてはいるが,完全性・可用性侵害罪自体にフォーカスした研究を十分には行えなかった。 その代わりに,本年度においては,インターネットを用いた著作権法違反罪,及びこれに関連する刑法総論の論点に関するサーベイを行った。これらは次年度も継続していきたい。というのは,完全性・可用性侵害罪やコンピュータ詐欺といった課題があるなかで,ネットワークを利用した著作権法違反罪に関しては現実の立法論も我が国で出てきており,取り組むべき喫緊の課題だと思われたからである。サイバー犯罪が対象とする領域は幅広いので,情勢を注視しつつ,優先順位を決めて研究を継続していきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定通りの進展をみせたと考えている。すなわち,今年度は,いわゆるCIAの概念の中でC,すなわち機密性の侵害に関する犯罪論をまとめることができた。これは当初の予定通りの進展だといえる。今後の研究の推進方策にも掲げたように,機密性侵害ではないがそれに隣接するものとして著作権侵害罪があり得るので,それをさらに検討していきたいところではある。 もっとも,同時に残っている研究課題は,IA,すなわち完全性及び可用性の侵害に関する犯罪論である。まず,IAについては,コネクティッドカーのシステムに対する犯罪論を検討することで,少し取り組み始めることができた。ただし,取り組み始めたという段階なので,これから様々な議論を調査する必要がある。IAに分類される行為類型には種々のものがある。例えば,単にデータを改ざんすることやウィルスの頒布,それらが引きおこす重大な業務妨害といった行為群である。さらにはサイバーテロのような行為も含まれるだろう。それゆえ,来年度以降もこれを続けていきたいものの,IAの侵害に分類される全ての犯罪類型を検討することは難しいかもしれない。サイバーテロ対策に象徴されるように,情報やデータに対する攻撃からの保護を超え,サイバーフィジカルセキュリティの保護をも考えながら研究をする必要がある。これは,当初想定されていたサイバープロパーともいえる問題を超える可能性もあるが,テーマの発展性を維持しつつ,野心的に,次年度の研究につなげていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
サイバー犯罪の対象領域は幅広いところ,現在のところ,(インターネットを利用した)著作権法違反,(コンピュータ・データの)完全性・可用性侵害罪,コンピュータ詐欺罪といった優先順位でリサーチをしていきたいと考えている。次年度中に,著作権法違反に関する小稿を公刊するのがひとまずの目標である。また,次年度中に無権限アクセスと併置して論じられることのあるサイバーいじめに関する論文(主にアメリカ法の法状況の紹介)も公刊したいと考える。
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Causes of Carryover |
サイバー犯罪及びサイバーセキュリティに関する研究者のネットワークを構築するために海外出張等を考えていたが,連載論文や他の研究に追われ,書籍購入に留まってしまった。 むしろ,現在において,無権限アクセス罪の研究が一段落したということもあるので,自身の研究を国際社会における受容性を知るために積極的に海外にいって,海外の状況を知る等していきたいと考えている。
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