2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K13642
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Research Institution | Otaru University of Commerce |
Principal Investigator |
岩本 尚禧 小樽商科大学, 商学部, 准教授 (80613182)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 錯誤 / 損害賠償 / 詐欺 / 不実表示 / 債権法改正 / ドイツ法 / イギリス法 |
Outline of Annual Research Achievements |
錯誤者は過失ある表意者であるにもかかわらず、その責任は十分に追及されていない。錯誤者の責任は今般の債権法改正に係る議論においても詰められておらず、我が国の錯誤論は「錯誤者に甘い」ように見える。そこで本年度では、こうした錯誤論の問題と原因を確認するべく、ドイツ法とイギリス法を比較法として研究を実施した。その際、錯誤制度と密接に関連する詐欺の在り方にも注目しながら、錯誤法史と関連裁判例を分析した。その概略と意義は以下の通りである。 ドイツ法は「錯誤の相手方は少なくとも錯誤者より責任なき者」という考え方に基づいて錯誤者に損害賠償責任を課し、直接的に錯誤者の責任を追及する法体系であること、「相手方に落ち度ある場合」は意思決定自由の保護を実現するために広く解釈されている詐欺規定によって対処できること、そして「詐欺を広く解釈すれば錯誤の役割は小さくなる」ということが判明した。 イギリス法は「錯誤者の自己責任を相手方に転嫁すべきでない」という考え方に基づいて錯誤の主張それ自体を厳しく制限し、間接的に錯誤者の責任を追及する法体系であること、「相手方に落ち度ある場合」に機能する不実表示が詐欺被害の救済を拡大してきたこと、そしてドイツ法と同じく「詐欺を広く解釈すれば錯誤の役割は小さくなる」ということが判明した。 上記のドイツ法・イギリス法とは異なり、我が国では錯誤者に損害賠償責任を課さず、むしろ解釈論として錯誤者の救済範囲を拡大しながらも、他方で詐欺の故意要件に固執し、その射程を非常に狭く捉える。こうした比較法的な相違は、錯誤と詐欺の相互関係に鑑みたとき、我が国では錯誤者のみならず詐欺者を含めた「過失ある表意者に甘い」という実態を浮き彫りにするものである。かくして、我が国では「詐欺」が錯誤論の問題の一因であり、錯誤者の責任を考える上で詐欺論の再考が不可欠である、ということが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画以上に進展している理由として、当該年度途中からサバティカルを取得できた点が大きい(本研究の申請時点ではサバティカル取得の可否は未確定であった)。これにより、研究を想定より早く進めることができ、また研究成果の一部を予定より早く公表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
錯誤者の責任を追及する具体的な裁判例が現時点では必ずしも多くはないため(その数の少なさ自体が本研究の意義を裏付けるのであるが)、引き続き注意深く裁判例を探索し、実証的な根拠を積み重ねるよう努める。また、現段階での研究成果を学会・研究会において発表し、そこで得られた批判・指摘を踏まえて、研究の精度を高める。
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Causes of Carryover |
本年度において購入予定の図書の一部が年度末の直前で発売延期となったため、次年度使用額が生じた。当該図書は次年度にて発行予定であるため、その使用計画として当該図書の購入に充てる予定である。また、「旅費」および「その他」についても次年度における学会・研究会報告の費用として使用する予定である。
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