2019 Fiscal Year Research-status Report
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17K13648
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
村田 大樹 関西大学, 法学部, 教授 (10509227)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 侵害利得 / 不当利得 / 権利侵害 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、権利侵害によって得られた利益の帰属を考える前提として、その利益帰属の判断を支える法理論や法制度の基礎的な整理・検討を行った。具体的に検討したのは、それらの制度の中でも、侵害利得の体系的な位置づけである。 侵害利得は、不当利得の諸類型のうち、権利侵害者の得た利得を、本来それが帰属するべき者に返還させるものと考えられている。通説は、そこで、侵害された権利の客観的価値の返還を指示するが、なぜそのような結論となるのかについては、十分に説得的な説明がなされてこなかったように思われる。 他方で、不当利得法一般に目を向けると、そこで規律されるべき内容が民法典の他の箇所にも散在していることが分かる。これは、不当利得法が他の法制度を補完する機能を持っていることとも関係する。つまり、不当利得法は、抽象的に法秩序を補完するルールであるとともに、補完対象の各制度の中に具体的な規律を置くという二重性を有している。 そこで、本研究では、現在は一般不当利得法によって主に規律される侵害利得が、民法の諸制度のどれを補完する制度であるのかという観点から、その体系的位置づけを検討した。その成果は、拙稿「侵害利得の体系的位置づけ―あるいは侵害利得の解消論」中原太郎編著『現代独仏民事責任法の諸相』(商事法務、2020年)にまとめた。その結論は、まだ仮説ではあるが、侵害利得を、権利消滅に対する代償請求に関するルール、果実や使用利益の帰属に関するルール、権利侵害に対する損害賠償に関するルールに、分化・解消すべきであるとするものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
必ずしも当初の研究計画のとおりに進んでいるわけではないが、これは、本研究の全体の構想である「権利侵害によって生じた利益の分配法理の探究」を遂行するためには、まず、それを支える法制度の内容確定が必要と考えたことによる。この観点から見れば、権利侵害による利益の帰属を考えるための基礎的作業として必要と考えられる不当利得法(特に侵害利得)の機能について、一定の方向性を示すことができたことで、おおむね順調に進展しているもの言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終的な目的は、権利侵害によって生じた利益の分配法理の探究であり、当初想定していたのは、いわゆる「利益の吐き出し」が問題となる場面を念頭に置き、被侵害者の損害を越える利益を、侵害者と被侵害者とでどのように分配するのかであった。しかし、権利侵害により利益が生じ、その利益(の全部または一部)を被侵害者に与えることを考えるには、まず既存の法制度の整理検討をしなければならないと考えるに至った。したがって、2020年度も、2019年度の研究の方向性を発展させ、特に不当利得法の制度的な機能の検討に注力することにしたい。
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Causes of Carryover |
年度末に計画していた出張(研究会)が、新型コロナウィルスの影響で中止となったため。
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Research Products
(1 results)