2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K13656
|
Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
古谷 貴之 京都産業大学, 法学部, 准教授 (40595849)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 民法改正 / 売買 / 契約不適合給付 / 追完請求権 / ドイツ法 / EU法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、2017年5月16日に成立した改正民法の売買における契約不適合給付について理論的検討を行うものである。初年度(平成29年度)は、次の3つの観点から検討を行った。 第1に、わが国における現在の議論の到達点を明らかにすることを目的として、民法改正前後の判例・学説を整理・検討した。この研究成果は、拙稿「民法改正と売買における契約不適合給付」産大法学51巻3・4号(2018年)303-360頁として公表した。この研究において、改正民法における契約不適合給付に関して、とくに①「契約不適合」の意義、②「買主の追完請求権の法的性質」、③「売主の追完利益保障の意義」を検討する必要性を明らかにした。 第2に、ドイツ売買法の研究を行った。ここでは、主に、2018年1月1日施行の新売買法(BGBl. I 2017 S. 969)における買主の追完請求権に関する規律を検討した。ドイツ売買法の改正は、わが国の改正民法における追完請求権の検討を行う上で比較法的に重要な意味をもつ。 第3に、EU法の研究として、主に、「オンライン売買指令案」(COM [2015] 635 final.)の改正案(COM [2017] 635 final.)の検討を行った。この改正案は、「オンライン売買指令案」の適用範囲を一般の売買(対面販売)にまで及ぼすように拡大し、かつ既存の消費者売買指令(1999/44/EC)を廃止する提案を行うものであり、EU売買法における新たな指令提案として重要な意義をもつ。この新指令案の研究は、拙稿「EUデジタル単一市場における新たな動向ーオンライン売買指令改正案の検討ー」産大法学52巻1号(2018年)49-82頁として公表予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度(平成29年度)は、上記「研究実績の概要」欄に挙げた研究において、わが国における現在の議論とドイツ・EUにおける比較法議論を整理・検討した。わが国の民法改正後の契約不適合給付の規律の枠組みはドイツ売買法及びEU売買法における規律枠組みと類似しており、比較的長くこの問題について議論の蓄積をもつドイツ法及びEU法は、今後、わが国における契約不適合給付に関する理論分析を行う上で重要な意味をもつと考えている。もっとも、わが国の議論を整理・検討した結果として、今後さらに①「契約不適合」概念の意義、②「買主の追完請求権の法的性質」、及び③「売主の追完利益保障の意義」について立ち入った検討をする必要性があることが明らかとなった。その意味で本研究にはさらなる検討の余地が残されている。また、本年度(平成29年度)は、ドイツ新売買法における追完請求権及びEU売買法における契約不適合責任に関する研究を行ったが、ドイツ法及びEU法では2018年以降もさらに多様な議論が継続的に行われており、今後もその議論をフォローする必要性を感じている。このように、本研究にはなお残された課題が多くある。しかし、現在のところ、研究計画に従い、おおむね順調に研究を進めることができていると考える。 なお、作業の過程において研究が当初計画通りに進まなくなる場合の1つとして、民法改正案の審議が進捗せず、改正が引き延ばしになることが予想された。しかし、この問題は2017年5月16日に改正民法が成立したことにより解消された。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、わが国の改正民法の下での売買における契約不適合に関する研究を行う。ドイツ法及びEU法の最新の動向を手掛かりにしつつ、わが国の改正民法における契約不適合に関する規律について分析を加え、法解釈上残された問題に対する一定の解決を示すことを試みる。具体的には、①「契約不適合」の意義、②「買主の追完請求権の法的性質」、及び③「売主の追完利益保障の意義」について、より詳細な検討を行いたい。 この検討を行う上で、ドイツ法及びEU法の比較研究を基礎に置く。すなわち、上記①について、ドイツでは「瑕疵(ないし契約不適合)」概念の捉え方について既に判例・学説上多くの議論の蓄積があり、この議論を参照することで、改正民法における契約不適合概念の検討を行う上で一定の示唆を獲得することができると考える。また、上記②について、最近のドイツ法及びEU法の展開をみると、欧州司法裁判所の判例(Weber/Putz判決)やドイツ売買法の改正(2018年1月1日施行)により、買主の追完請求権の法的性質がいっそう明確になるとともに、追完請求権の範囲や限界事由といった追完請求権の法的性質に密接に関連する諸問題についても熱心に議論されていることがわかる。ドイツ法及びEU法における最新の動向を明らかにし、それをわが国の改正民法と比較することにより、改正民法における買主の追完請求権に関する規定の意義と特徴を明らかにすることができる。さらに、上記③について、売主の追完利益保障の意義について激しい議論の対立があるドイツ学説の議論を参照し、またその議論の背景事情にまで遡って検討を行うことで、わが国の売買における売主の追完利益保障のあり方について一定の示唆を得ることができると考えている。 今後は、主に上記3つの観点から研究を進める。現在のところ、研究計画の変更等は必要としていない。当初研究計画に従い、上記課題に取り組みたい。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、2017年9月1日から在外研究のため一時的に本研究の中断期間であったことである。物品費以外については、費用を支出していない。 翌年度において、今年度使用する予定であった費用を使用する。使途は、図書(邦語文献及び外国語文献)の購入費、国内及び海外研究旅費、パソコン周辺機器の購入費、パソコンソフト・記録用メディアの購入費、印刷費・通信費である。
|