2017 Fiscal Year Research-status Report
The Range of Suitability Rule to Discount Broker
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17K13659
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Research Institution | Himeji Dokkyo University |
Principal Investigator |
永田 泰士 姫路獨協大学, 人間社会学群, 准教授 (10514424)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 狭義の適合性原則 / 勧誘規制法理 / 取引開始規制法理 / 受託規制法理 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初計画では、平成29年度は、ドイツ法の分析を予定していたが、先行して日本の行政規制及び業界自主規制並びに下級審判例の動向を分析することとした。これにより、ドイツ法分析の目的が一層明確になると判断したためである。 平成29年度の検討課題は、以下の通りである。適合性原則は、勧誘規制法理として生成・発展を遂げてきたため、勧誘がない場合には、適合性原則の射程は及ばないのではないかが問われる。しかし、以下の場合には、この問題提起は成り立たなくなる。すなわち、勧誘の適正化ではなく、取引開始自体の適正化を意図する取引開始規制法理としての適合性原則が存在する場合、そして、さらに進んで、個々の注文の受託の適正化を意図する受託規制法理としての適合性原則が存在する場合である。そこで、平成29年度は、これら二つの勧誘規制法理とは異なる適合性原則の存在を、行政規制及び業界自主規制並びに下級審判例に見出せるかを検討した。 検討結果は、次の通りである。まず、行政規制及び業界自主規制には取引開始規制法理としての適合性原則が存在する。また、業界自主規制には、その具体的内容は必ずしも明らかではないが、受託規制法理としての適合性原則の萌芽が存在する。 次に、下級審判例の大勢は、取引開始規制法理としての適合性原則の存在を肯定しているが、そこで要求される義務水準は勧誘規制法理としての適合性原則に比べ低水準であることが判明した。また、下級審判例の大勢は、受託規制法理としての適合性原則の存在を肯定しているが、同法理は、証拠金の裏付けがない、又は極めて乏しい中で与信行為を行ったなど、極めて特殊な受託行為のみを規制している。 かかる今年度の検討結果から、行政規制・業界自主規制、下級審判例の大勢との関係では、「勧誘」がない場合に適合性原則が機能する余地はない、とはいえないことが、明らかになったといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画において遂行する予定であったドイツ法分析に先行し、日本法の分析を行ったが、その結果、上述の「取引開始規制法理としての適合性原則」と「受託規制法理としての適合性原則」という、従来論じられてきた「勧誘規制法理としての適合性原則」とは異なる法理としての適合性原則の存在と、下級審判例の大勢におけるその義務水準を把握することができたことは収穫であったといえる。 また、その結果、以下の通り、本課題を遂行する上での分析の視角が明確に浮かび上がったといえる。従って、ドイツ法の分析と国内の法状況の分析との順序が前後したものの、本課題全体としては、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
前述のとおり、勧誘規制法理としての適合性原則とは性質が異なる二つの適合性原則、すなわち、取引開始規制法理としての適合性原則及び受託規制法理としての適合性原則が存在すること、そして、これらは勧誘規制を目的としていないがゆえに、勧誘行為が不在である局面でもその射程が及び得ること、ただし、その義務水準は、勧誘規制法理としての適合性原則に比べ低水準であり、後者にあっては、極めて例外的局面のみを規制対象としていることが明らかとなった。 しかし、これらは、あくまでも、行政規制及び業界自主規制並びに下級審判例の大勢を浮かび上がらせたに過ぎない。今後は、この法状況が理論的に正当化し得るか、あるいは比較法的にどのようにどのような特質を有するのかを検討する必要がある。 今後、前者については、公正と厚生の観点からの分析を行う予定であり、後者については、当初計画で最初に遂行する予定としていたドイツ法を素材として分析を行う予定である。
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Causes of Carryover |
当初計画においては、今年度にドイツ法の分析を行う予定としており、そのため、ドイツ法に関する文献等を購入する予定であったが、日本法を先行して分析したためにドイツ法の分析にかかる文献等の購入を次年度に繰り越すこととなった。また、機器の一部についても、年度を跨ぐ可能性が高かったため、次年度に購入を先送りした。 これらは、次年度において、当初計画に掲げたドイツ法の分析を行う上で使用する予定である。
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