2018 Fiscal Year Research-status Report
The Range of Suitability Rule to Discount Broker
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17K13659
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Research Institution | Himeji Dokkyo University |
Principal Investigator |
永田 泰士 姫路獨協大学, 人間社会学群, 准教授 (10514424)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 狭義の適合性原則 / ネット証券会社 / 取引開始基準の確認 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度に遂行した検討は、次の二点である。第一に、MiFIDⅡを受け、2018年1月3日に全面改正がなされたドイツ証券取引法(以下、「改正ドイツ法」とする)のもとでの、我が国の取引開始基準の確認に相当する適格性(Angemessenheit)審査義務(改正ドイツ法63条10項)に関して検討を行った。その結果、まず、適格性審査が不要となる種類の金融商品が改正前との対比において限定されたことにより(改正ドイツ法63条11項)、適格性審査の対象が拡張していること、次に、複合サービスや複合商品につき、その総体が適格性審査の対象となることが明確化されていることが判明した(金融商品AとBからなる、リスク及び複雑性がA・Bよりも高度化した金融商品Cが組成された場合、リスク及び複雑性が高度化したCに対して顧客が適格性を有するかが問われる)。他方、改正ドイツ法63条10項が義務の詳細の規定を委ねる委員会委任規則〔(EU)2017/565 55〕55条における適格性審査の義務内容は、基本的に改正前のドイツ法における適格性審査義務と異なるところはないことも判明した。 第二に、1995年証券取引法下の事案であるが、適格性審査義務違反の有無が争われた2003年の事案(BGH Urt.v.11.11.2003 WM 2004,24)の検討を行った。同判決において、適格性審査の内容としては、金融商品を大まかに5クラス程度に分類し、顧客に知識と経験、リスク受容性の申告を求め、当該顧客が適格性を有するクラスを評価すれば足りること、また、顧客提供情報に依拠した審査をすればよく、例外的に申告の再検証が求められるのは、申告の不正確さを認識していた場合、又は、不正確であることが明白であった場合に限られることを前提としている。これは、私法上の適格性審査義務の水準が低度であることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の検討を通じて以上のことを把握したが、以下の通り、なお検討を要する点があり、当初目指していた本年度内の検討結果の公表に至れなかった。 改正前のドイツ法では、適格性審査において、顧客提供情報の再検証は原則として求められておらず、例外的にその必要が生じるのは、申告の誤り又は不完全性を証券サービス業者が知っていたか、重過失によって知らなかった場合に限定されていた(旧31条6項)。これに相当する規定は、改正ドイツ法63条10項が義務の詳細の規定を委任する上述の委員会委任規則55条において設けられている。同条は、MiFIDⅡ前のMiFIDⅠのもとにおける実施指令37条3項の規定内容をそのまま引き継いでおり、顧客情報の再検証が例外的に求められるのは、顧客提供情報が、「明らかに(manifestly)」古い、不正確、不完全であることを投資業者が認識していた場合又は認識すべきであった場合であるとする(委任規則55条3項)。この委任規制の意味するところは、適格性審査義務違反となるのは、例えば、顧客提供情報が明らかに不自然であるのにこれ見落とした場合、すなわち重過失が存する場合に限られるものと思われる。ただし、条文の文言上は、重過失という従来のドイツ法における表現が用いられていない。そこで、免責対象を明確にする必要がある。 我が国において、信用取引の取引開始が適合性原則違反となるかが争われた和歌山地判平成23年2月9日金法1937号133頁とその控訴審たる大阪高判平成23年9月8日金法1937号124頁では、まさにこの審査義務の水準に関する理解の相違が結論を分けている(地裁は高水準の再検査義務を前提とし義務違反を認定したが、高裁はかかる義務水準を前提とせず義務違反を否定した)。そこで、この点に関する改正ドイツ法の状況の明確化が必要不可欠かつ急務である。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の課題、すなわち、適格性審査義務のうち顧客提供情報の再検査義務の水準の明確化を終え次第、検討結果の公表作業を本格化させる。 前年度に公表した研究成果において、我が国の現在の下級審の大勢は、勧誘規制法法理としての適合性原則とは区別される、勧誘行為を前提としない、取引開始規制法理としての適合性原則の存在を認めていることを明らかにした。また、その義務内容は、取引開始時に、顧客の投資経験、金融資産の状態、年収、投資資金の性質、投資目的、を大まかに把握可能なフォーマットを作成し、当該フォーマットに基づき投資者に申告を求め、得られた申告に基づき取引開始適合性を判断すれば足り、申告内容の確認をなすべき義務は、例外的な位置づけとされていることも明らかとした。 かかる我が国の法状況のうち、勧誘行為を前提としない取引開始規制法理としての適合性原則に相当する義務は、改正ドイツ法においても存在するが、その義務内容は、我が国の下級審判例の大勢とほぼ同様であること、そして、前述の課題を解明した結果が現時点での暫定的理解と同一である限り、顧客提供情報の再検査義務の水準もまた、改正ドイツ法の法状況は、我が国の下級審判例の大勢の理解と軸を一にすることが明らかとなる。これは、我が国の下級審判例の大勢が示す取引開始規制法理としての適合性原則が、ドイツ法との対比で、規制として緩やかに過ぎるわけでもなく、逆に規制として厳格に過ぎるわけでもないことを示す結果である。 これらを示す研究結果を公表した後、我が国の下級審判例の大勢が示す、取引開始規制法理としての適合性原則の存在並びに義務内容及び義務水準が、公正及び厚生の観点から望ましいものであるかを分析し、その分析結果の公表を目指す。
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Causes of Carryover |
今年度における改正ドイツ法に関する書籍の出版が当初予想よりも少なく、想定していた独書購入が大幅に次年度に持ち越しとなった。もっとも、次年度は、当初予定していた改正ドイツ法に関する書籍に加え、研究課題との関係上、EU指令等につき、当初予定していたよりも多くの書籍の購入が必要となる。次年度使用額は、これらに用いることを予定している。
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