2020 Fiscal Year Research-status Report
The Range of Suitability Rule to Discount Broker
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17K13659
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Research Institution | Himeji Dokkyo University |
Principal Investigator |
永田 泰士 姫路獨協大学, 人間社会学群, 准教授 (10514424)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 狭義の適合性原則 / 取引開始規制法理としての適合性原則 / 受託規制法理としての適合性原則 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の本研究課題の目的は、前我が国の下級審判例の大勢が示す法状況、すなわち、取引開始規制法理とは区別される取引開始規制法理としての適合性原則と、受託規制法理としての適合性原則を私法上肯定するが、その義務水準は、勧誘規制と明確に区別し、低次に留め置くとする解釈が、投資者の権利保護の観点から正当化できるか、また、市場の観点から正当化できるかを検証することにあった。 まず、投資者の権利保護の観点からは、勧誘により投資者を不適合取引に引きずり込んだことに悪質性を見いだし、違法とする、勧誘規制法理としての適合性原則との対比で、投資者の主体的取引開始の希望を認めたこと、あるいは、投資者の主体的注文を受託したことに、なぜ悪質性が見いだせるのかが明らかにされなければならない。この点、投資者の経済的利益のみならず、生存基盤を脅かしかねない危険を多分に含む累計の取引である証拠金取引については、投資仲介者が故意又は著しい不注意により、生存基盤の危殆化をもたらした場合には、保護利益の重要性と、故意又は著しい不注意という態様が相まって、一定程度の悪質性が見いだせ、違法性を基礎づけることができる。 次いで、市場の観点からは、証拠金取引における取引開始規制や、約定時維持必要証拠金率や維持必要証拠金率を内容とする受託規制は、投資者が決済損金を生じさせ、これを投資仲介者が立替えた場合に、投資者がこれを弁済できず、回収不能となることによる投資仲介者の財務基盤の悪化が生じる事態を制度的に減じる機能を果たす。そこで、ある取引開始規制や、受託規制が、それによって生じる総コストに見合うだけ、投資仲介者の回収不能リスクを減じるのであれば、市場の観点から望ましいと評価することができる。 かかる観点からの検討を加え、証拠金取引をめぐる下級審判例の示す法解釈は、投資者の権利保護及び市場の観点から正当化し得ることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題において当初掲げた到達目標は、本研究課題の遂行期間の延長の承認が得られ、それにより、本年度も引き続き本研究課題を遂行する機会に恵まれたことによって、おおむね達成することができた。業法や業界自主規制の分析、下級審判例の分析により、勧誘規制を目的としない新たな適合性原則の存在とその内容を分析すること、EU指令及びドイツ法の法状況を分析することにより、我が国の法状況を相対化することに加え、残された課題であり、最重要課題であった、その法状況が、投資者の権利保護の視点から正当化できるか、また市場の観点から正当化できるかを、今年度の本研究課題の遂行によって、明らかにすることができた。証拠金取引に関しては、両者の観点から正当化し得るとの結論に至った。 また、本研究課題の遂行の中で、EU・ドイツにおいて、CFD取引に関して、新たな規制が導入されたことを把握することができた。この規制は、本研究課題における、受託規制法理としての適合性原則に密接に関係する。加えて、同規制は、それが投資者や投資仲介者の行動にいかなる影響を与えることになるのかを慎重に検討しなければならない内容を含むものである。そこで、このEU・ドイツにおける新たな規制の分析を行い、日本の受託規制の内容との相対化を図ることにより、本研究課題をより一層充実させることができる。 そこで、今年度、当初掲げた到達目標の達成に加え、この新たなEU・ドイツのCFD取引に関する規制の分析を行い、研究成果への反映を目指したが、未達成となってしまった。そこで、本研究の遂行期間の再延長を申請し、承認が得られた。これにより、次年度も、引き続き本研究課題を遂行する機会に恵まれた。
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Strategy for Future Research Activity |
EU・ドイツにおける新たなCFD取引の規制を分析し、それに基づき、日本の受託規制としての適合性原則に関する現在の法状況を相対化することが、本研究課題を充実させる上で不可欠の課題となる。これに取り組む。 また、2018年に大きく改正されたドイツ証券取引法に関するコンメンタール等の主要文献の刊行が、今後、より進むと考えられる。新法に対して示される見解に注視し続けることにより、日本の法状況の相対化をより充実させることができる。 さらに、EU・ドイツにおいて、投資規制を構築する際に、ファイナンス理論や行動ファイナンス理論の知見が参照されており、規制の構築に大きな影響を与えていることを、本研究課題の遂行を通じて把握することができた。今後、投資取引に関する民法理論に対しても、ファイナンス理論や行動ファイナンス理論が大きなインパクトを与えることが予想される。そこで、これらの知見を可能な限り吸収し続けなければならない。 加えて、今年度の研究成果においては、受託規制法理としての適合性原則の高度化は、投資者の権利保護の視点からも、市場の視点からも正当化が困難であるとの結論を導いたが、投資者の主体的投資判断の環境を充実させることが、弊害を伴わずに可能であるならば、それが実現することが望まれることは、いうまでもない。受託規制法理としての適合性原則の活用による実現は、正当化困難であるとの結論を導いたことから、それ以外の方法による実現可能性を模索し続けなければならない。
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Causes of Carryover |
2018年に改正されたドイツ証券取引法関連書籍の刊行が今一歩進まず、それにより、想定していた図書購入が進まなかったことなどに起因する。 本研究課題の遂行期間の再延長申請を行い、申請が承認されたことで、本研究課題を2021年度も引き続き遂行する機会に恵まれた。その実施の中で、ドイツ証券取引法関連書籍の購入など、本研究課題をより充実させるための研究に充てることを予定している。
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