2017 Fiscal Year Research-status Report
「職務著作」制度の再構成-起草過程に基づく系譜的・比較法的考察
Project/Area Number |
17K13664
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
山根 崇邦 同志社大学, 法学部, 准教授 (70580744)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 知的財産法 / 著作権法 / 著作者 / 著作者人格権 / 著作権 |
Outline of Annual Research Achievements |
わが国の著作権法15条1項は、(i)法人等の発意に基づいて従業者が職務上作成する著作物のうち、(ii)法人等が自己の著作名義の下に公表するものについては、(iii)その法人等を著作者とする、(iv)ただし、従業者が著作物を作成する際に、契約や勤務規則等で、当該従業者を著作者とする旨の定めを置くこともでき、その場合には、(i)(ii)の要件を満たすものであっても当該従業者がその著作者となる、と規定している。 従来この規定は、(i)の要件を根拠に、専ら〈職務著作〉制度として捉えられてきた。そして、そのような視点から、(ii)の要件の存在意義が不明であること、英米や大陸法系の制度と比較してみても法人等に著作者人格権が帰属する(iii)の効果は特異であり、正当化しえないことが批判されてきた。 しかし、わが国の著作権法15条1項の起草過程を調査してみると、起草者は、(i)の要件により法人等への著作権の帰属を、(ii)の要件により法人等への著作者人格権の帰属を、それぞれ正当化しうると考えていたこと、後者の論拠としたのが、団体内で作成される著作物のうち、団体が自己の著作名義を以て発行するものについては、当該団体をその著作物の作成責任者として著作者とみなす、《団体名義著作》の考え方であること、それゆえ、わが国の制度は、純粋な〈職務著作〉制度というよりも、《団体名義著作》を基礎としてこれに〈職務著作〉の要件を組み込んだ制度といえること、が明らかとなった。 これを受けて、本年度の後半には、《団体名義著作》の規定をもつオランダ著作権法に注目し、同法8条の《団体名義著作》の規律に関する資料の収集や裁判例の調査を行った。こうした作業により、オランダでは、1912年の著作権法制定以来、100年以上にわたって法人等への著作者人格権の帰属および法人等による同権利の行使を認めてきたことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の前半には、わが国著作権法の1970年全面改正時の立法資料を中心に丹念に分析した。こうした作業により、わが国の著作権法15条1項の起草過程に関する理解を深めることができた。また、本年度の後半には、オランダ著作権法の《団体名義著作》の規律に関して、A CENTURY OF DUTCH COPYRIGHT LAW (Bernt Hugenholtz, et al. eds., deLex Publishers, 2012)およびJACQUEILNE SEIGNETTE, CHALLENGES TO THE CREATOR DOCTRINE: AUTHORSHIP, COPYRIGHT OWNERSIP AND THE EXPLOITATION OF CREATIVE WORKS IN THE NETHERLANDS, GERMANY AND THE UNITED STATES (Kluwer, 1994)を手がかりとした検討、資料の収集、裁判例の調査を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度も、当初の研究計画にそって、本研究課題を遂行することを予定している。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、予定していた海外出張の一部が、先方のスケジュールとの関係で次年度に延期になったためである。したがって、翌年度分の助成金は、当初の研究計画で予定している内容に加えて、本年度から延期になった海外出張等に支出する予定である。
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