2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K13673
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
桐谷 多恵子 長崎大学, 核兵器廃絶研究センター, 客員研究員 (30625372)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 被爆者 / 沖縄 / 戦争体験 / 原爆 / 沖縄戦 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、沖縄の被爆者の人びとに対して被爆体験とその後の自分史について聞き取り調査を行うとともに、それらの証言を収集し、記録として残す作業に取り組む。以上のような作業を通して、沖縄の地域特性の中での被爆者の姿を学術的な研究として提示することを目指す。研究期間を3年間とし、沖縄において被爆者や被爆関係者への聞き取り調査を行う。同時に、国内で可能な限り、沖縄の被爆者に関わる史料を収集する。また、史料の収集が十分ではない沖縄の被爆者をめぐる諸問題の史料について、発掘と所在の確認、位置づけを行う。本研究での新しい視座は、広島と長崎の被爆者と沖縄の被爆者の戦後史を比較と関係の視点から検証することにある。沖縄と「被爆者」を問う本研究の取り組みは、日本国内の問題に限らず、国際関係の中の「戦後日本」の問題をあぶり出す研究となる。 以上の研究目的を軸に、初年度である当該年度は、研究の基盤作りの一年となった。改めて先行研究を調べ、研究史における本研究の位置づけを行った。その上で研究計画を具体的に作成した。また、聞き取り調査や資料調査でご協力いただく機関への調査依頼を改めて行った。「『沖縄の被爆者調査』に関する研究(調査)へのご協力のお願い」を作成し、①沖縄県原爆被爆者協議会、②沖縄平和運動センター、③沖縄県保健医療部へ送付した。その結果、それぞれの機関から調査協力についてご快諾をいただいた。その後、沖縄での聞き取り調査ならびに史料調査を開始した。特に、沖縄県原爆被爆者協議会のご協力により、初年度の調査をスムーズに始めることができた。また、図書館や公文書館への資料調査はもちろんのこと、沖縄の被爆者の方が個人的に所蔵している史料も調査させていただくという有意義な機会を頂戴した。以上、順調な滑り出しの年となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、当初の予定通り沖縄・広島・長崎での史料収集と聞き取り調査を実施した。当該年度は初年度ということもあり、研究の基盤作りから始めなければならなかった。特に聞き取り調査に際し、被爆の体験や戦争の記憶について、更には彼ら/彼女らの家族の歴史を聞くために、被爆者との信頼関係の構築が必要である。そこで、沖縄の被爆者の方々への聞き取り調査を本格的に開始するにあたり、研究の目的や意義を説明することから始めた。その際に、これまでの自身の研究成果(広島や長崎での被爆者への聞き取り調査)を参考にしながら調査に取り組んだ。 新しい研究のフィールドに挑戦する時は多くの困難を伴う。研究初年度ならではの難しさがある中で、研究を順調に開始することができたのは、ひとえに沖縄県原爆被爆者協議会の調査へのご協力に他ならない。聞き取り調査を開始して改めて思ったことは、沖縄独自の文化、特に言語(ウチナーグチ)をしっかりと学んでおく必要があるという点である。広島と長崎の被爆者への聞き取り調査においても地域に根差した言葉の大切さを実感したことがあった。言語は記憶を想起する際に極めて重要なものである。また、「本土」や「ヤマト」との文化が異なっている点も沖縄被爆者の証言の中でいくつか言及があった。原爆が落とされてからの話にとどまらずに、沖縄や琉球の歴史、言語、文化については更に学んでいく必要がある。改めてこの点を確認し、次年度に活かして研究を発展させていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、研究初年度と同様に①沖縄の被爆者の聞き取り調査、②沖縄の被爆者に関する史料調査を行う。沖縄の被爆者や被爆関係者への聞き取り調査は、彼ら/彼女らが高齢化していくために一刻を争う状況にある。初年度の聞き取り調査でも、被爆者の方の体調不良により聞き取り調査が直前でキャンセルとなる事例があった。一方で、被爆者の方が「話しておきたい」と積極的に自分史を語ってくださる事例もあった。聞き取り調査を通して得られる新たな知見は貴重である。証言の収集とその記録化は生存者がご存命である現時点での重要な課題である。今後の研究においても、聞き取り調査を優先的に行い、インタビューを記録として残していく。更に次年度以降は、集めた証言の文字おこしを行い、論文としてまとめていく作業に取り組んでいく。
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Causes of Carryover |
本研究は、被爆者の証言と史料を収集し、記録化することを第一の目的として、研究・調査を進めてきたが、次年度使用が生じた理由は、予算化していた調査に協力してくださった方への謝礼金の支払いについて、調査に協力してくださった方から辞退の申し出があり、実際の執行には至らなかったためである。 平成30年度の使用計画では、沖縄や琉球の歴史についての研究書や広島・長崎の被爆に関する文献の購入、沖縄・広島・長崎での現地調査への旅費(史料収集と聞き取り調査)、そして調査をご協力くださった方への謝礼金に使用する予定である。以上、必要に応じた適切な研究予算の執行を心がけていく所存である。
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Remarks |
桐谷多恵子「広島・長崎からの視点――二人の被爆者へのインタビューを通して――」(pp.42‐46)、鈴木達治郎編『核兵器禁止条約採択の意義と課題』RECNA Policy Paper, 6, pp.1-51; 2017
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