2017 Fiscal Year Research-status Report
The Integrated Study on the Transformation of Modern State: from the Point of View of Critical Realism
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17K13682
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
加藤 雅俊 立命館大学, 産業社会学部, 准教授 (10543514)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 現代国家の変容 / 福祉国家 / 国民国家 / 社会統合 / 国家論 / 比較政治経済学 / 国際社会学 / 国家論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度は、1)理論研究として、現代国家の変容を捉えるための理論枠組の構築に向けて、国家論の批判的検討を行い、その意義と限界を確認し、2)経験分析として、オーストラリア(以下では、豪)や日本(以下では、日)を事例として、グローバル化およびポスト工業社会への移行などの経済社会環境の変化に対する政策対応の変遷を整理した。 まず理論研究に関して、B.Jessopの『国家』の訳出作業および関連する業績(例、C.Pierson『The Modern State』、R.Lachmann『States and Power』など)の批判的検討を通じて、現代国家を分析するためには、国家を社会関係の総体として捉えた上で、領域性、国家機構、人口、国家構想に注目することが必要であることが明らかとなった。しかし、ジェソップの理論は抽象度が高いため、経験分析へと架橋するためには、比較政治経済学や国際社会学の諸知見(例、特徴把握のための分析枠組として、段階論と類型論を設定し、因果分析のための理論枠組として、利益・制度・アイディアの相互作用に注目するなど)を組み込む必要があることも明確となった。 次に経験分析として、福祉国家の黄金時代において、保護主義的な諸政策により雇用保障に重点を置いてきた豪日が、経済社会環境の変化に対して異なる政策対応を採用してきたことを確認した。すなわち両国は、保護主義的な諸政策からの脱却(言い換えれば、新自由主義的諸政策の採用)という点で共通性を持つ一方で、豪は外国人労働者を積極的に受け入れつつも、社会政策や労働市場政策では保護の強化が一定模索されてきたが、日本では外国人労働者の受け入れを抑制しつつ、両政策領域においては自由主義化を進めてきたのである。 以上のように、本年度は、国家論の批判的検討と豪日の分岐について分析を行い、これから検討を深めるべき論点を明らかとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2017年度は、上述のように、理論研究および経験分析において、一定の成果を上げることができた。しかし、多忙を背景に、年度の中盤と終盤で、体調を崩してしまったこともあり、豪の現地調査や海外研究者の訪問などを見送らざるをえなくなってしまった。そのため、資料収集や意見交換という点では予定よりも遅れが生じてしまった。現在は体調も回復しつつあるので、2018年度以降は遅れを取り戻すべく、努力を続けたい。 加えて、研究を進めるなかで、新たな課題も明らかとなった。研究計画段階では、理論研究(比較政治経済学や政治理論の批判的検討など)を基礎として、経済社会環境の変化によって生じる社会問題に対して、国政レベルでの政策対応とその背景にある力学に注目して分析を進めることを予定していた。しかし、理論研究および経験分析の諸作業を進めるなかで、国政以外の諸レベル(例、国際・国家間・地域・自治体の各次元など)における諸主体(例、国際機関、国家、自治体、非政府組織、市民社会の諸団体、企業など)の実践の重要性が明らかとなった。これらの論点を射程に入れるためには、国際関係論のグローバル・ガバナンス論や地方自治論・行政学などのローカル・ガバナンス論などの諸知見をあらためて勉強する必要があり、結果として、研究に遅れが生じることとなった。 以上のように、自らの体調不良および新たな研究課題の発見のなかで、当初の予定よりも研究は遅れることとなってしまった。しかし、新たな課題の考察・分析なくしては新しい社会統合の全体像を捉えることはできない。幸いにも、2017年度の研究活動のなかで、検討すべき課題・論点は明確となっている。今後は遅れを取り戻すべく、ポイントを絞り、研究を進めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度は、前年度の到達点と課題をふまえて、1)理論研究に関して、ガバナンス論の批判的検討を行い、その意義と限界を確認した上で、これまでの研究成果の知見と統合して、新たな理論枠組の構築を行いたい。また、2)経験分析としては、理論研究の知見を活かして、豪日の両国を事例として、経済社会環境の変化のなかで、どのような社会統合が実現し、それを可能とした力学を明らかにしたい。 具体的には、理論研究に関して、上述のように、社会統合のあり方と課題を捉える上では、国政レベルにのみ注目するのは不十分である。多レベルにおける多主体の関係のあり方を捉える概念として、社会諸科学において「ガバナンス」概念は注目を集めている。広義の政治学における議論状況を検討し、その到達点と課題に関して、社会統合への示唆という点に注目して整理し、その知見を活かしていきたい。次に、経験分析に関して、17年度に行った予備的作業と理論研究の成果をもとに、18年度は豪の現地調査を行い、今後の研究に必要な資料収集と研究者との意見交換を行いたい。福祉国家改革や移民政策の変容に関して、両国を比較分析した研究はこれまで少ないが、二次文献をもとにした前年度の研究成果の有効性・妥当性を、豪日それぞれの専門家の意見交換を通じて、確認したい。また、豪での現地調査を行い、地方自治体レベルにおける社会統合の諸実践を明らかにしたい。これらの作業を通じて、次年度の研究成果の取りまとめに向けた論点整理を行いたい。 以上のように、2018年度は、ガバナンス論の知見をふまえ、社会統合の全体像を捉えるための理論枠組の構築を行う一方で、豪の現地調査を行うことで、前年度に得られた知見の批判的検討を行い、理論枠組の刷新と経験分析の実質化を進めたい。
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Causes of Carryover |
上述のように、2017年度は、体調を崩してしまったことによって、当初予定していた豪の現地調査および海外の研究者訪問が実施できなくなってしまった。そのため、研究費の執行が進まず、次年度以降への積み残しが生じている。最近になり体調も改善したことに加え、新たな研究課題も明らかとなっているため、今後は、豪の現地調査および海外の研究者訪問、ガバナンス論の批判的検討を行うための文献購入などによって、研究費を有効に利用していきたい。
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Research Products
(10 results)