2017 Fiscal Year Research-status Report
同盟と戦略の理論分析―ベトナム撤退期の米戦略転換と日米・米比・米タイ・米韓同盟
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17K13683
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
玉置 敦彦 東京大学, 政策ビジョン研究センター, 特任研究員 (50772480)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 同盟 / アメリカ / 国際秩序 / 日米関係 / アジア太平洋 / 戦略 / フィリピン / 韓国 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、70年代におけるアメリカのアジアにおける戦略転換と同盟政策の関連を、同盟国国内の政治力学を踏まえて検討することを目的とするものであり、特にアメリカと日本、韓国、フィリピン、タイとの同盟関係と、アメリカの戦略転換の関連に注目している。2017年度は、歴史研究の前提となる、アメリカの戦略と秩序構想についての理論的検討を進めた。 研究成果は以下の通りである。まず、アメリカの戦略構想の論理構造に関する研究会報告を3回にわたって行った。また国際会議において2度の報告を行ったが、第一の発表では米中関係を焦点にアメリカの戦略構想の変遷を解明し、第二の報告では、日本の秩序構想を焦点としてアメリカ主導の国際秩序における同盟国の対応を明らかにした。なお、以上の研究報告の過程で研究会提出論文を2本執筆している(日本語・英語)。 以上のように、アメリカを中心とした視点と、中国と日本という異なる視点からの報告の双方を行う機会が得られたことで、アメリカのアジア戦略構想の論理の概要をまとめ、また同盟の位置付けについてもある程度の見通しを得ることができた。 さらに、本科研の直接の成果ではないが、密接に関連する研究成果として、以下の論考を出版することができた。「米韓同盟と日韓国交正常化―六・三事態をめぐるアメリカの対韓政策、一九六四年」『神奈川法学』第 49 巻第 1・2・3 合併号(2017 年)。「ベトナム戦争をめぐる米比関係―非対称同盟と『力のパラドックス』」『国際政治』第 188 号(2017 年)。以上二件は、70年代の歴史研究の前提となる60年代の同盟関係に関する個別の外交史研究である。また、以下の成果は、アメリカの秩序構想の論理を検討したものである。「秩序と同盟―アメリカの『リベラルな国際秩序』戦略」『国際安全保障』第 45 巻第4 号(2018 年)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通りに関連の論文を公刊することができ、また、本研究の外堀というべきアメリカの戦略に関する検討作業が順調に進んでいるため、進捗はおおむね順調である。特に、現在の戦略的不透明性故にアメリカの戦略構想・秩序構想については多くの研究成果が続々と公表されている状況にあり、本研究の進捗もこの面では、予想を超えて大きく進んでいるといえる。特に、アメリカの戦略と秩序構想に関する報告の機会が多く得られたことが、報告へのフィードバックも含めて、本研究の進展に大きく寄与したと考えられる。 他方で、研究機関の移籍や、それに伴う準備や環境の変化があったために、歴史研究のための基礎作業を行うことができなかったことは、2018年度以降の課題であろう。とりわけ、移籍や研究報告の準備に忙殺され、予定していた在外調査を行うことができなかったことが問題であった。これと関連して、2017年度の研究は、アメリカの戦略と秩序構想の概略をつかむことに焦点を当てたために、その内部における変化を十分にとらえられていないという問題点がある。 以上のように、理論研究の面では、当初の計画以上の進展が見られた一方で、歴史研究の面では研究に若干の遅れが出ている状況である。総体としては、研究はおおむね順調に進展しているといえるが、以上の点を克服することで、2018年度以降はより順調に研究が進捗するものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」で述べたように、2017年度は、アメリカの戦略と秩序構想の全体像に対する検討が大幅に進んだ一方で、歴史的な変化や個別の同盟研究について十分に検討することができなかった。そこで、2018年度は、2017年度に得られた知見を、歴史的な変化の中に位置づけることに力点を置く予定である。これは、本研究の焦点である70年代の個別の同盟研究を精査することにとどまらない。70年代の意義を理解するためにも、それ以前の冷戦初期、また冷戦後の状況についての見取り図を形成することが必要であるからだ。 そこで、まず、2018年度前半期をめどに、英語の研究会提出論文として、新たに70年代はじめまでのアメリカの戦略と同盟の関連についての研究成果をまとめる予定である。この研究は、本研究計画の理論枠組みを、アメリカ主導の国際秩序と同盟の形成期にまでさかのぼって、その妥当性を検討するものとなるだろう。また同時に、冷戦終結後のアメリカの戦略と同盟についても研究を進めることを予定している。この二つの研究の完成によって、本研究の枠組みに基づく、冷戦期を通観した時代把握が可能となると思われる。 本年度後半期には、以上を踏まえて、70年代の時代性と特殊性を理解するための、個別の戦略と同盟の検討を集中的に行うことを予定している。まず最も業績が蓄積されてきた日米同盟についての最新の研究成果を整理し、次いで逆に研究が乏しい70年代から80年代にかけてのアメリカの東南アジア戦略を概観することで、歴史研究の第一歩としたいと考えている。
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Causes of Carryover |
2017年度は、所属機関異動に伴って在外資料調査やインタビュー等を行うことが難しく、そのため旅費の支出が当初の予定と比して少額であった。また、物品費の多くは在外資料調査に必要なスキャナやパソコン、プリンタや関連消耗品といったものを想定していたため、これも同様に想定していたほどの支出がなく、人件費・謝金についても同様である。 「その他」の支出項目は当初の予定を上回ったが、これは主として英文校閲費が想定以上に必要となったためである。単価は予定通りであったが、国際会議でのプレゼンテーションや、英文による研究会報告論文の執筆が続いたため、予想を上回る支出となった。 2018年度は、以上を踏まえて、在外調査や学会への参加、またそれに伴う物品の購入を進めていきたいと考えている。
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