2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K13684
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中村 長史 東京大学, 大学総合教育研究センター, 特任研究員 (80793710)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 国際政治 / 紛争研究 / 平和構築論 / 軍事介入 / 出口戦略 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「武力を用いた平和活動(armed peace operation)からの撤退決定が可能になるのは、いつか」という問いに答えるものである。大国間戦争の脅威が遠のいた冷戦終結後、武力を用いた平和活動が盛んになるとともに、撤退(終戦)の決定は介入(開戦)の決定よりも難しいといわれる機会が多くなった。例えば、米軍は、2001年に介入したアフガニスタンにおいて、2019年現在もなお駐留を継続し、「米国史上最長の戦争」と呼ばれるに至っている。科研費・特別研究員奨励費を得て進めた研究(15J04383)においては、「出口戦略のディレンマ」という構造的な要因ゆえ撤退決定が難しくなることを示したが、現地での活動が永遠に続くわけではない。では、撤退決定が可能になるのは、いつか。 この点につき、既存の研究は、例えば、近く予定されている国内選挙における有権者からの批判を回避するために撤退が決定されるといったように、介入国が「目前の批判回避」のみを図ると捉えて立論してきた。一方、本研究は、撤退後に治安が悪化した場合に生じる不満を他の主体(前政権や国際機関、被介入国など)に逸らすことができる状況にあるときに可能になると考える。つまり、介入国は「将来の批判回避」をも図ると捉えるわけである。この視点の転換により、政策決定者を近視眼的な主体だとする仮定から解放してもなお撤退決定は難しいことを示し、従来の議論に比べてより構造的な要因を明らかにすることを目指した。そして、このような議論を「責任転嫁可能な好機」として概念化した 3年計画のうちの2年目となる2018年度は、上記の仮説に基づいて、主に米国主導のイラク(2003年~2011年)やソマリア(1992年~1994年)等における活動について事例分析を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3年計画の2年目となる2018年度の計画は、①イラク(2003年~2011年)に関する事例分析をアフガニスタン(2001年~)と同じレベルにまで深める、②アフガニスタンやイラクと同様に米国主導でなされたソマリア介入(1992年~1994年)についての事例分析を新たに行なう、③米国のような個別国家ではなく国連主導でなされた事例(カンボジア、コソボ、東ティモール)にも分析対象を広げて説明を試みるという三段階に分かれていた。 このうち、①については予定通りの進捗があり、②についてはアフガニスタン、イラクの両事例に比べて分析に甘さが残っているものの、一定の進捗があったといえる。一方、③においては、国連主導の活動についても、個別国家主導の活動とほぼ同様に説明ができると考えていたが、一ヶ国あたりの負担の違い等もあり、国連主導の活動については別途新たに理論構築を行なう必要があると判明した。 この過程で、出口戦略(撤退)という本研究のテーマに密接に関わる論文として『国連研究』19号に査読付き論文が掲載されることとなったのは、大きな成果である。同時に、撤退ではなく介入に関する議論であるが、単行本所収論文を2本出版することもできた。介入論は撤退論にも少なからぬ影響を与えるもののため、最終年度となる次年度における分析枠組みの精緻化にも資するところが大きいといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる2019年度は、三段階に分けて研究を進めていく方針である。①ソマリアに関する事例分析をアフガニスタンやイラクと同じレベルにまで深める、②国連主導でなされた事例(カンボジア、コソボ、東ティモール)について米国主導でなされた事例(ソマリア、アフガニスタン、イラク)と比較して、その異同に着目しながら新たに理論構築を行なう、③アフガニスタンやイラクを主対象にした場合と同様に論文にまとめ、査読付学術論文誌への掲載を目指す、の三段階である。 とりわけ②の段階に一定の時間を要するものと思われるが、順調に進んだ場合には、次年度以降に計画していた新たな研究課題に取り組む。すなわち、在外基地からの撤退や植民地からの引き揚げといった類似事例に関する予備調査を前倒しして実施する。
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Causes of Carryover |
英語論文の執筆完了が次年度に持ち越しとなったため、英文校閲に用いることを想定して計上していた額が未使用となった。次年度の前半に執筆が完了する予定のため、その際の英文校閲費に当てることを計画している。
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Research Products
(5 results)