2017 Fiscal Year Research-status Report
Unbalanced Integration of Financial Systems: Europe in Crisis
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17K13695
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
神江 沙蘭 関西大学, 経済学部, 准教授 (90611921)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 国際政治経済学 / 金融ガバナンス / ユーロ危機 / 欧州統合 / EU / ドイツ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度の春から夏にかけて、欧州の通貨・金融分野において、金融市場での欧州単一パスポートの導入や共同通貨ユーロの導入等の市場創出的統合が加速したのに対して、監督規制改革等の市場修正的な統合がなぜ遅れたかという点を、1990年代のグローバルな国際金融規制(バーゼル委員会での議論等)の流れを踏まえて分析した。そこでは特に米国等の域外の経済大国との競争的関係が、域内で必要とされた金融ガバナンスの構築にどう影響したかを検証している。その成果の一部は、6月に香港で開催された国際問題研究学会(International Studies Association:ISA)で報告し("Germany and Japan: Great or Middle Powers in Global Banking Regulation?")、共著本(『Middle Powers in Europe and Asia』eds. Giacomello and Verbeek)の執筆担当章の草稿に取り入れた。 当該年度の秋からはユーロ導入によってインフレ調整や経済政策の調整がより困難になった点をECBの設立が市場での期待形成に与えた影響という観点から分析し、これが分権的な金融監督体制の下にあった欧州金融市場でのリスク膨張に繋がった可能性について検討した。また、ユーロ危機を経て、ECBが金融安定化や市場回復に積極的な役割を担う等、ユーロ圏においてサプライサイド政策を重視する従来の傾向に一定の変化が生じた点に着目し、その背景/影響としてドイツ国内政治に生じた変化や摩擦について検討した。2月19日~3月7日にケルンのマックス・プランク研究所(社会科学)において客員研究員として現地調査を行い、セミナー報告、関連機関へのヒアリング調査を行い、その成果を単著原稿『統合の政治学』の草稿の執筆に取り入れた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本プロジェクトについて、邦語での単行本(仮題:『統合の政治学』)の執筆を進めつつ、その他の共著原稿(『Middle Powers in Europe and Asia』)の担当章の執筆に取り組んだ。国際学会での発表やセミナー報告等を定期的に行い、意見交換を通じた研究の質の向上に努めている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度(本科研費二年目)は前年度の研究の成果を踏まえ、ユーロ危機後に進展した市場修正的な統合を含む諸改革について評価しつつ、中でも銀行同盟に着目しながら、その限界と課題について検討する。特にイタリア銀行破綻処理をめぐる事例では、単一破綻処理メカニズムが特定の政治的配慮等から独立的に機能していたかが不明であり、財政面でのバックアップが不十分であるために生じている制度の歪みと、危機時のベイル・イン(債権者負担)原則の限界、欧州で監督機構等を中立的に運営することの困難さという三つの観点から問題の諸相を分析する。また近年、反EU・反グローバリズムが台頭したり、域内で政治的な分断が高まる中で、欧州の金融・通貨統合に関わるアジェンダがどのような影響を受けているかについても検討する。これらの課題について検討する中で、金融安定化に関わる欧州統合を阻んできた、そして今も阻んでいる政治的・制度的要因について考察を深め、ユーロ危機によって金融安定化に関わる政策パターンはどの程度変容したか、またそれをいかに説明するかという点について検証を進める。各ケースを総合的に説明できる理論的フレームワークを再度練り直し、欧州政治・比較政治分野の理論的な議論にも貢献できる研究成果を出すことを目指す。
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Causes of Carryover |
当該年度中にドイツでの現地調査を可能にするため、年度途中に次年度予算からの繰り上げ申請をしており、その際に不足が生じないよう(基金という性質上、次年度への繰り越しについては問題が少ないことから)、余裕をもった額を申請していた。二年間の基金全体の残額と合算すると、次年度に予定する国内学会での発表や英文校閲、書籍購入等の支出予定額(合計で40万弱)に相当する額を残額として繰り越している。
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Remarks |
2017年10月27日~29日 国際政治学会(国際統合分科会Ⅱ)に討論者として参加。 2018年3月1日 マックス・プランク社会科学研究所にてセミナー報告。 2018年3月5日 ベルリン参事会金融委員会(Senatsverwaltung fuer Finanzen Berlin)にてセミナー報告。
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Research Products
(2 results)