2019 Fiscal Year Research-status Report
J. S. ミルとブリテンの帝国支配:ミルは属国についてどう論じたか
Project/Area Number |
17K13711
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Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
小沢 佳史 九州産業大学, 経済学部, 講師 (80772095)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | J. S. ミル / 帝国 / 属国 / 植民地 / 古典派経済学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、本研究を3本の柱で進めた。第1の柱は、2018年度までに調査した資料の分析である。とりわけ未刊の資料(ミルの自筆草稿)の分析を中心として作業を進めた。その中で明らかになったのは、ミルの代表的な著書の中で明示された見解が、どのような背景でどのように形成され成立したのかを、この資料によって鮮明に描き出せる可能性が非常に高いということであった。そして2018年度の資料調査を契機として、この資料の刊行を当初の案よりもはやめていただくことができたため、2019年度中には資料を自由に参照・引用できるようになることが予定されていた。しかし他方で、この資料の刊行が2019年度の後半になると予想されたため、この資料を用いたより本格的な研究を2020年度へ持ち越し、2019年度は以下の2つの作業を優先して進めることにした。 第2の柱は、研究報告とそれに基づく共著の原稿執筆(2020年度刊行予定)である。この報告と原稿では、支配国(19世紀のブリテン)の税制改革をめぐってミルが、資本家や土地所有者の利益をできる限り損なわないような具体策――ミルの理想とは異なる次善の策――も提示していたことが明らかにされた。この成果から、ミルが帝国体制の維持に伴って支配国による経済的な負担を主張したとき、そしてこの負担を支配国においてどのように割り振るかを提示したとき、その主張がミルにおいてどのような重みを持っていたのかをはかる1つの基準が示されると期待できる。 第3の柱は、国際会議での英語報告である。この報告は、属国政策に関するミルの見解のうちの財政面と、その基礎にあるミルの進歩観について取り上げたものであり、最終的に英語論文を投稿するための準備作業として位置付けられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度には、一方で、資料分析・研究報告・論文執筆といった点で、本研究を確実に進めることができた。けれども他方で、研究計画のすべてを遂行することはできなかった。それゆえ、現時点では「やや遅れている」と評価される。 具体的には、(a)英語報告を行った後に英語論文を投稿するには至らなかった。その主な理由は、①年度の初めには把握し切れなかった校務へ断続的に従事したことである。また(b)別の英語論文について、2020年度の国際学会での報告の目処を付けることができなかった。その理由は2つであり、②上述の資料の刊行を待っていたことと、③2019年度末にCOVID-19の影響が広がり、2020年度の国際学会の日程が予断を許さなくなったことである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、第1に、2019年度の英語報告の成果を踏まえて英語論文を改訂し、学術雑誌に投稿する。これは上述の(a)に対応する作業であり、2020年度前半に行う予定である。上述の①について言えば、2019年度に従事した校務の任期を満了したため、2020年度は問題なく作業を進めることができると予想される。 第2に、2019年度末に新しく刊行された資料(既述の②を参照)を用いて研究を進め、2020年度後半には、英語報告を経て英語論文を完成させる。これは上述の(b)に対応する作業である。上述の③について言えば、現時点では9~10月に開催される国際学会での英語報告を予定しているが、万が一国際学会での英語報告が困難となった場合には、オンラインなどでの報告を模索する予定である。
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Causes of Carryover |
2019年度には、英語論文を学術雑誌へ投稿すること、および別の英語論文を2020年度の国際学会で報告する目処を付けることが予定されていた。しかし既述の3つの理由(①~③)により、これらを遂行することができなかった。そしてこのために、次年度使用額が生じることになった。 次年度使用額は、1本目の英語論文を投稿し、2本目の英語論文の報告原稿を執筆するため、英文校正費に主として充てられる。他方で、2020年度分として請求した助成金は、英語報告のために国際学会へ参加し、その後に英語論文を改訂するため、旅費と英文校正費に主として充てられる。
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