2017 Fiscal Year Research-status Report
内生的な処置変数が測定誤差を伴う因果推論モデルの研究
Project/Area Number |
17K13715
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
柳 貴英 一橋大学, 大学院経済学研究科, 講師 (30754832)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 計量経済学 / ミクロ計量経済学 / 因果推論 / 測定誤差 / ノンパラメトリック法 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度には、次の5点の研究成果を得た。第1に、内生的な処置変数が観測上のエラーを含むときの因果推論の問題点を明らかにした。一般的な因果推論のフレームワークで考えられる二値処置変数が観測上のエラーを含むときには非古典的な測定誤差が生じてしまう。その結果として、処置変数と結果変数の平均的な因果関係をあらわすパラメータである局所平均処置効果は点識別できなくなることを示した。 第2に、上述の問題点を解決し、局所平均処置効果を点識別・推定するための統計的手法を開発した。具体的には、共変量・操作変数・繰り返し観測値などの外生的な変数が少なくともひとつ利用できるときには局所平均処置効果を点識別できることを証明した。局所平均処置効果の推定方法として、識別結果から導かれるモーメント条件にもとづく一般化モーメント推定を提案した。さらに、一般化モーメント推定の統計的な性質を導出するとともに、推定量の漸近分布にもとづく局所平均処置効果の信頼区間の推定方法も提案した。 第3に、開発した手法の現実的な性能を評価するために、シミュレーション実験と実証分析例を展開した。シミュレーション実験では複数のシミュレーションデザインのもとで、開発した一般化モーメント推定が測定誤差を考慮しない既存の推定方法よりも望ましい性質をもつことを示した。実証分析例では賃金と学歴の調査データを使いつつ、測定誤差を考慮しない既存の推定方法は平均的な因果関係を過大に評価してしまう一方で、開発した手法は平均的な因果関係を正しく評価できることを実演した。 第4に、開発した一般化モーメント推定を実装するためのRパッケージを作成し、研究代表者のウェブサイトにおいて公開した。 第5に、上述のすべての研究成果をまとめた論文を執筆するとともに、論文にまとめた本研究の成果を学術会議において報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成29年度内に遂行する予定であった論文執筆と併行して、平成30年度前半までに遂行する予定であった学術会議における研究成果報告も実施することに成功している。さらに、執筆した論文を計量経済学分野の国際学術雑誌に投稿し、平成29年度内に再投稿の依頼を受けることにも成功している。そのため、平成29年度末における現在までの進捗状況は当初の計画以上に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策としては、次の2点を計画している。 第1に、平成29年度に再投稿の依頼を受けた論文を国際学術雑誌に掲載できるように改訂する。 第2に、これまでに開発した内生的な処置変数が観測上のエラーを含むときの局所平均処置効果の識別・推論手法の拡張に取り組む。具体的には、回帰不連続デザインにおける測定誤差の問題にも対処できるように開発した識別・推論手法を拡張する。この拡張には平成29年度後半から取り組んでおり、平成30年度以降にも継続的に実施する予定である。さらに、もうひとつの拡張として、今後は測定誤差が存在するときの因果推論における分布処置効果・分位点処置効果の識別・推論手法の開発にも取り組む予定である。
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Remarks |
平成29年度内に執筆した論文と作成したRパッケージを公開している。
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