2017 Fiscal Year Research-status Report
企業のグローバル化と情報通信技術が所得格差に与える影響に関する計量実証的研究
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17K13719
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
桑波田 浩之 弘前大学, 人文社会科学部, 講師 (40782785)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 貿易自由化 / 所得格差 / 情報通信技術 / ストックオプション / 労働組合 / 企業マイクロデータ |
Outline of Annual Research Achievements |
情報通信技術とグローバル化が所得格差へ与える影響について、データを収集し分析を行った。本研究の中心的課題について、端緒的な分析にも着手したが、まず研究期間の初年度として、基本的な企業の特性と企業内の所得格差の関係について、記述統計を中心としたデータの分析に主眼をおいた。分析の結果、輸出企業は国内企業に比べて、企業内の所得格差が拡大していることが確認された。この結果は、グローバル化に伴って、輸出企業の経営者の賃金が上昇する一方で、国内企業の経営者の賃金は低下することを理論的に予測をした Dinopoulos and Unel (2017) と整合的な結果と位置付けられる。 また、情報通信技術への投資を積極的に行っている企業ほど、企業内の賃金格差が拡大していることも判明した。この結果は80年代頃より進行した所得格差の拡大の主因を技能偏向的技術進歩に求める Autor at al. (2008) らの先行研究を裏付ける結果となっている。 加えて、ストックオプション制度を採用している企業ほど、企業内の所得格差が拡大している傾向も見られた。Lemieux et al. (2009) などでストックオプション制度など能力主義の報酬体系の採用が、企業内の所得格差を拡大させることが示されている。ストックオプションと所得格差の関係については、以下の査読誌に研究成果を公刊した。"Does Performance Pay Increase Wage Inequality in Japan?" The Empirical Economics Letters, vol.16 (12), pp.1319-1328. 最後に労働組合を組織している企業は非組織企業に比べて、企業内の所得格差が小さいことも明らかになった。この結果は DiNardo at al. (1996) らを支持する結果となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
データの結合に時間を要したが、理論の予測の通りの実証結果を得ることが出来た。特に本研究の中心的課題の1つである企業のグローバル化と所得格差の関係については、先行研究では明らかにされていないグローバル化が所得格差拡大へ与える経路について実証的な結果を得ることが出来た。その他、情報通信技術、ストックオプション制度、労働組合も所得格差へ有意な影響を与えていることが確認された。このうち、ストックオプション制度の採用の有無が、所得格差の拡大に与える影響については、査読付きの論文へ投稿し掲載がされた。データベースの構築に時間を割き、研究発表の機会は限られたため、最終年度は、海外学会を含め、得られた研究成果を積極的に報告していく。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は研究最終年度に当たることから、研究成果を論文にとりまとめ、海外の研究会を含め学会での報告を積極的に行う。関連分野の研究者よりコメントを得て、学術専門誌に投稿し、研究期間内での公刊を目指す。所得格差は、欧米だけでなく日本においても関心が高まっているテーマとなっている。研究初年度は、弘前市のラジオ番組「アップルウェーブ」に出演し、研究内容の周知を図ったが、最終年度においても、一般向けの講演、研究代表者のホームページ等を通じて成果の普及に力を入れる。加えて、所得格差の拡大の要因については未だ明らかにされていないことも多く、本研究で扱えなかったこともあるため、今後の研究につながる問題点の整理にも注力したい。
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Causes of Carryover |
データの結合に時間を要し、論文のとりまとめに遅れが生じ、研究発表の機会が限られた。本研究では計4つの大規模データを結合したが、そのうち3つのデータは、同じ販売会社より購入したのにも関わらず、各データのラベルや様式が異なっており、1つのフォーマットを構築するのに時間が必要となった。研究最終年度においては、研究成果の発表を積極的に行うことから、次年度において旅費等について所用額の支出が見込まれる。また、支出を予定していたパソコンについては購入を断念し、既存のもので対応することとした。全米経済研究所のワーキングペーパー購読料については、ホームページ等で公表されている論文で代用した。
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