2017 Fiscal Year Research-status Report
Economic Analysis of Liability for Damages Concerning Nuclear Disaster
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17K13751
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Research Institution | Meisei University |
Principal Investigator |
大石 尊之 明星大学, 経済学部, 准教授 (50439220)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 不法行為法 / 法と経済学 / ゲーム理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は原子力災害の賠償責任問題を以下の3つの観点から検討した。 まず、過去の被災経験から帰納的に防災・減災を推論する意思決定の特徴づけを考察した。Gilboa and Schmeidler (2001, MIT Press)は過去の経験から帰納的に行う一般的な意思決定の公理化を行っているが、原子力災害のような特殊な状況では彼らの公理の一部は機能しないと考えられる。現在、その中の「結合公理」と呼ばれる公理を原子力災害の文脈での適切な公理に置き換えることが可能かどうかについての研究を進めており、次年度も継続してこれを行う。 次に、複数の不法行為者と被災者の間の因果関係が樹木構造になるような賠償責任問題を、ツリー構造をもつ提携形ゲームとして定式化し、「社会の人々の最大不満の最小化」というロールズ流の社会公正性を反映した賠償責任ルールの特徴づけを考察した。この研究は海外の研究者との共同研究を通じて行っている。なお、同じ問題をOishi, van der Laan, and van den Brink (2015, Tinbergen DP)が扱っているが、この問題を「主原因」「独立参入原因といった不法行為法上の法概念を基礎にして再考しており、今回得られた特徴づけは新しい結果になっている。この結果はOishi, van der Laan, and van den Brink (March 2018, Meisei University DP)で公開している。また、海外研究機関(Corvinus University of Budapest)にて当該論文の報告を行った。 最後に、防災・減災の意思決定を適切な投票制度のなかで位置づけるための基礎研究を進めた。具体的には、投票者たちの不満にさまざまな歪みがある場合の重み付き多数決投票制度の特徴づけをゲーム理論的に考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は研究成果の一部を論文として公開し(Oishi, van der Laan, and van den Brink, Meisei University DP, March 2018)、さらに海外研究機関で論文報告を行い、多くの海外研究者と当該研究に関する情報交換および議論を行った(研究機関名: Corvinus University of Budapest 発表年/月:2017年9月11日)。当該年度の一連の研究を通じて、複数の不法行為者と被災者の間の因果関係が樹木構造として表現されるような賠償責任問題について、不法行為法に基づく法と経済学の観点から明らかにされた。この意味で、研究はおおむね進展しているといえる。 一方、防災・減災の投資インセンティブと社会厚生の関係を、Gilboa and Schmeidler (2001, MIT Press)が提唱した事例意思決定モデルの理論を援用して考察するためには、被災の経験から得られたデータの蓄積がどのように防災・減災の意思決定に関連付けれらるかを明らかにすることが欠かせないことが当該年度の研究を通じて明らかになった。そのため、過去の災害データの蓄積から帰納的に防災・減災を類推するような意思決定を特徴づける研究を現在進めている。次年度までにこの方向での研究をとりまとめたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度の研究計画の一部である損害賠償ルールの特徴づけに関する研究は、平成29年度の研究のなかで達成できているので、さらに今後これを発展させていく。また、平成30年度は、損害賠償ルールの特徴づけに関する研究成果を国内外の学会で報告し、問題を精査し、必要に応じて分析手法等の修正を行う予定である。具体的には、平成30年度において、Society of the Advancement for Economic Theory主催の国際学会および日本経済学会に研究成果を発表することが確定済みである。 また、平成29年度から取り組んでいる防災・減災のための意思決定の特徴づけをGilboa and Schmeidler (2001, MIT Press)によるアプローチを援用して行う研究を平成30年度も継続する。この特徴づけを基礎にして、原子力災害の防災・減災のインセンティブ設計の研究に活用する。国内の意思決定理論研究のワークショップ等にも参加し、積極的に当該問題に関する情報を収集し、研究を着実に遂行する。 さらに、平成29年度に一部取り組んだ、防災・減災の意思決定を適切な投票制度のなかで位置づけるための基礎研究を一層進めていく。具体的には、投票者たちの不満にさまざまな歪みがある場合の重み付き多数決投票制度が機能するような重みの一意性とその表現定理について、原子力災害における政治的意思決定の問題と関連付けながら考察していく。
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Causes of Carryover |
平成29年度は大学を移籍した年であったことから、国際学会での研究報告を目的とした海外出張の事前計画を立てることが難しかったため、海外研究機関での研究報告を1回行うのみにとどまった。平成30年度は、本研究の目的を達成するために不可欠な情報交換ができる、理論経済学の国際学会に参加し、研究報告を積極的に行うことを計画しており、そのために当該助成金を使用したいと考えている。また、研究遂行に必要不可欠な環境整備のために、PCあるいはその周辺機器、ならびに関連研究書籍の購入にも当該助成金を使用したいと考えている。
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Research Products
(4 results)